『ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎』。かの火かき棒をめぐるたった10分の出来事の真相をたどったら分厚い1冊のドキュメンタリーになった。著者はBBCの記者で意外に最近の本だった(2001年)。
通常ウィトゲンシュタインに関する本は哲学の詳しい説明であるため必ず難しい。しかしこの一冊は主にその人物に迫る本であるので、すらすら読めて、それでもウィトゲンシュタインについてやけに詳しくなれる。そうしてまずはウィトゲンシュタインの予想を超えた異形さに、度肝を抜かれる。
ウィトゲンシュタインは<哲学にできることなど何もない。それどころか哲学こそがすべての間違いのもとなんだ>といった強烈な信念を抱いていた(とみられていると思う)。その雰囲気が(実はその思考自体もだが)立体的に迫ってくる。そのように構成されている。
その強烈さに直撃された1つを引用──
《かれ(その場に居合わせた一人)は、ウィトゲンシュタインがつぎつぎと繰り出す警句をとても気にいっていた。たとえば、世界を変えられると信じているポパーのような哲学者を評して「ケツより高くクソをしようとするな」などと言ってのけるやりかたである。》