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【2019 輪廻転生】

★レ・ミゼラブル ★フランス史10講

NHKのドラマ『レ・ミゼラブル』がきっかけで、フランス革命後の歴史が知りたくなり、『フランス史10講』という岩波新書を読んだ。高校世界史の教科書よりは詳しく、各イベントの背景や推移を解説し、またその意義を踏み込んで考察していて、勉強になった。

同書はフランク王国百年戦争絶対王政なども当然記述されるが、フランスの歴史の誇らしい輝きといえば、やはり1789年〜1870年の100年間にあるのだろう。ほかの時期のフランス史はむしろ西洋史の一部としてたどったほうがわかりやすいようにも思える。

しかしながら、この100年間には王政〜共和制〜帝政の変転がめまぐるしく繰り返されたので、私の場合、そもそも全体を正確に把握できていない。それぞれの主役になる人々と生活の実像そして不満や騒動の実相をイメージしたり共感したりというところには、なかなか到れないのがもどかしい。

たとえば、信長と秀吉と家康の順番を間違えたりは、ふつうはしない。明智光秀は微妙だが誰を殺したのかを間違えたりはしない。しかし、フランスで1830年に起こったことと1848年に起こったことと1870年に起こったことの区別は、わりとアバウトになってしまうということ。

そんなわけで、『レ・ミゼラブル』のクライマックスとなるパリ市街のバリケードでの戦闘が1830年の革命かと思ったら、1832年の6月暴動と呼ばれる事件だった、なんてことになる。ただ、あのバリケードや三色旗や若者の造形や拳銃を持った少年の活躍は、『民衆を導く自由の女神』の絵画そっくりだ!

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%91%E8%A1%86%E3%82%92%E5%B0%8E%E3%81%8F%E8%87%AA%E7%94%B1%E3%81%AE%E5%A5%B3%E7%A5%9E

それと、フランス革命でいつもどうもすんなり理解できないのは「あれ、なんでそこでナポレオンなんですか?」ということだろう。しかも2回もだ。「1度目は悲劇として2度めは喜劇として」という文言も、このことを指してマルクスが書いたという。

レ・ミゼラブル』で、マリウスの父はナポレオン軍の将校としてワーテルローで戦った。しかしマリウスの母方の祖父は王党派でそれゆえにナポレオンにかぶれたマリウスの父を大いに嫌っていた。それはいいとして、不思議なのは、その王党派を心底憎んでいる共和主義者たちが、皇帝に成り上がった人物であるナポレオンには、どちらかといえば親しみや敬意を抱いているらしいところだ。なぜだ?

これはしかし、フランス史における基礎問題としてとっくに答えは出ているのだろう(私が知らないだけで)。『フランス史10講』から少し拾ってみればーー

ナポレオン帝国は言語・出版を統制し、レジヨン・ドヌール勲章を制定し、新しい貴族をつくって宮廷を復活させた。この新しい社会秩序の基準は「国家への奉仕」である。つまり、ナポレオン帝国は全国民に皇帝への服従を求める専制国家だった。しかし、皇帝の正統性は、血統ではなく人民投票に立脚している点で、革命の原理に立っている》(柴田三千雄フランス史10講』 p.132)

次はナポレオン3世(2度目の喜劇):
《選挙に当たり、彼は、フランス革命で発揚された人民の権利と権威的指導者がもたらす秩序という二原則の結合こそが、フランスの混迷した現状を打破し国民に栄光を約束するとの「ナポレオン的理念」を、新聞、版画、歌などの大衆的メディアを動員して浸透させた。また一八四〇年末にナポレオン一世の遺骸がセント-ヘレナ島からパリのアンヴァリードに移され、革命の守護者、不運な英雄という「ナポレオン伝説」がつくられていたことも彼に利した》(同 p.153)

……そういうものだ。と言うしかないか。

さてこのナポレオン祭り的な奇妙さは特別だけれど、栄光の100年間をざっと眺めた印象は、フランスと言ったって革命と言ったって自由・平等・友愛と言ったって「まあなんだか怪しいよね」ということになる。

そもそも、清く正しく美しい革命など、世界の歴史のどこにもないのだろう。

今コロナのことで日本の政治や社会はガタガタ揺れてひどい醜態をさらしていると思うけれども、そもそも政治や社会が揺れることの原点とも言うべきフランス革命の100年間も「なかなかどうして」と思うのであった。

 

さて、ドラマ『レ・ミゼラブル』はBBC制作だが、NHKの放映は全8回で、ややダイジェスト的なところがあったようで、残念だった。この物語はとうぜん1年間の大河ドラマにふさわしいだろう。公式サイトでは鹿島茂さんの解説が放映内容をけっこうしっかり補足している。https://www4.nhk.or.jp/les-miserables/

それと、『レ・ミゼラブル』は大衆性たっぷりなのかなとも思う。神父と燭台のエピソードを皮切りに、見せ場が満載。日本の小説だとどんなものが近いのだろう。『金色夜叉』とか?