東京永久観光

【2019 輪廻転生】

中国旅行中(3)

まだ中国にいる。明日(11日)帰国する。貴州省の観光地を10日間で3カ所回った。普通よりのんびりペースだが、それでも行き帰りの飛行機を含め6日間は長距離移動をした。

かつてヴェンダースなどの映画はロードムービーと呼ばれ、つまりアクションやドラマや恋愛の映画というより移動がテーマだった。

中国の特に地方はアクセスがとかく不便だし、べつに私向けに好都合にできてはいないので、今回も「移動ばっかりだな」と改めて思う。しかし移動の映画があるように移動の旅行があってもいい。いや、そもそも旅行の本質は移動そのものかもしれないではないか。

6日間の準備、4日間の本番と言ってもいいか。仕事などもたいてい準備のほうがはるかに長いのだ。しかし仕事にはゴールがある。観光旅行はどうなんだ。観光して写真をとったらそれがゴールか? よくわからない。ヴェンダースロードムービーでは、なんらかのゴールにたどり着いていたんだっけ?

ちなみに、ジャームッシュの映画『Stranger than Paradise』では、ゆくあての曖昧な3人組が、クリーブランドのどこかへ景色を眺めに車で出かけていくが、着いたら吹雪で真っ白で何も見えませんでした、というシーンがあった。そういえば、その場面をあしらったTシャツをむかし着ていた。

https://www.tshirtxy.com/movie-stranger-paradise-t-shirt-for-men-white-tee

そんなふうに映画を見てそんなふうに旅行をしてきた。仕事もしてきた。さて人生はどうか。どれが準備でどれが本番だったのか。ゴールにたどりついたか。これからたどりつくのか。そもそもゴールはあるのか。人生もまた移動と観光そしてその面倒と曖昧そのものをそう呼んだほうがいいのではないか。

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映画の話なら、昨夜の宿では映画が視聴でき、なんと『HANA-BI』があったのでまるまる見てしまった。滝や山の奇観に劣らず目を奪われて。中国語の吹き替えかと心配したがそうではなかった。そもそも寡黙な映画だ。岸本加世子なんて、台詞はラストの「ありがとう」「ごめんね」くらいではないか。

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それでふと思った。中国語もできずに中国を旅行すると、いくらか関わることになる人に対し、ことごとく気持ちを伝えられない。それこそせいぜい「ありがとう」「すみません」「ではさようなら」くらい。あとは寡黙。ときには手帳に文字を書く。自分は『悲情城市』のトニー・レオンかと思いながら。

いや「わかりません」が最頻出か。だいたい相手だって私の気持ちをそんなにわかりたくもない。もともと私の旅行のテーマはメタ観光だなあと思わざるをえないのと同じく、海外旅行とはディスコミュニケーションを体験しに行くものだと言いたくなる。毎度毎度。

しかし。私の場合、今回特記すべきはスマホタブレット)のGoogle翻訳を試しながら旅行したこと。日本でもスマホ未経験の私が。(中国の人はもちろん年中煙草を吸っているとともに年中スマホをいじっている。トイレにしゃがみつつ煙草とスマホを手放さない人も目撃した。手機人民。中華電網共和国)

中国の人も、言葉のわからない私に、どんどん自分のスマホの翻訳ソフト(中国ではグーグル禁止なので百度かなにか)を使って用件を伝えてくる。ただまあ、ちょっとおかしな日本語に変わる。いや、こちらのGoogle翻訳(対策して使えるようにしていく)の中国語だって怪しいものだ。

だから会話は実にぎこちない。しかしふと思うのは、これは機械翻訳だからぎこちないのではなく、中国語を知らない私と日本語を知らない相手との会話だからそもそもぎこちないのではないか。いやそれどころか、元来コミュニケーションとはスムーズであるほうが珍しいのではないか、と。

機械を介した会話にまだ私たちが慣れていなことも根本にあろう。「この村ではどんなものを食べますか」と興味を持って質問すると、なんだこの人は腹が減ってるのかと思われ「食堂はこの路の先です」といった返事が返る。コミュニケーションは常によじれる。ソフトのバカ正直さがそれに輪をかける。

とはいえこれは革命だ。指先がなぞった言葉や、舌先から漏れた言葉が、瞬時に外国語に翻訳されるなんて。あるいはこのように電子化されて世界中にツイートされるなんて。これを革命と言わずしてどうしよう。最も遅くスマホタブレット)を始めた私の驚愕。

ホモサピエンスは言語を得て、文字を得て、書物を得て、ネットを得て、そしてまたスマホを得た。

警官も携帯の翻訳ソフトで私に職質してきた。「一人で旅行していますか?」「鞄の中は何ですか?」最後は「旅を楽しんで下さい」と挨拶。「拳銃触ってもいいですか」と質問しても大丈夫な気がしたが、それはまずい。彼は警官でありチューリングテストをしているのではない。ここは中国語の部屋ではなく中国だ。