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【2019 輪廻転生】

NHK『人間って何だ? 超AI入門』視聴


ディープラーニングが一番効くのは指向性の波である視覚情報」(松尾豊さん)

この番組、つきぬけて高度、かつ、つきぬけて平易、という印象。

つきぬけて天上の紺 人工知能

http://www.nhk.or.jp/aibeginner/


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(12月22日)

「人間の組織はなぜ階層構造を成すのか?」――こんな本質的な番組はほかにないなあ。

「鳥=飛ぶこと+鳥らしさ 人間=知能+人間らしさ 飛ぶことは飛行機が肩代わりした では知能は?」(松尾豊さん)

「人間の世界の見え方には人間の認知の仕組みゆえの限界があるが、その認知の仕組みを超えたときに、世界はどう見えるのか」(趣旨)

「鳥=飛ぶこと+鳥らしさ 人間=知能+人間らしさ」は、昨夜のNHK番組『人間ってナンだ?超AI入門』で、松尾豊さんがホワイトボードに書いたもの。「飛ぶこと」を「鳥らしさ」と切り離して「飛行機」が実現したように、「知能」を「人間らしさ」と切り離したら、何ができますか、と問う。

そして、「人間らしさ」の少なくとも1つの要素は「人間の認知の仕組み」だろう。そして、人工知能の認知の仕組みが大きく異なるものであれば、世界の見え方も私たちの世界の見え方とは大きく異る可能性がある、ということになる。

ただし、「私たちの世界の見え方とは大きく異る世界の見え方」というものは、当然のことながら、私たちには理解も想像もできないだろう。いわば〈語りえず、しかも、示されもしない〉。これは「人工知能が人間らしさを失っていいの」という素朴な心配とは違った本質的な問い。

ただ、本質的な問いとはいえ、これまで、こんな問いは哲学またはSFなどの仮想でしか成立しなかった。『論理哲学論考』とか。『ソラリス』とか。しかし、人工知能が実現しつつある今、これはたぶん現実の問いになりうる。

「猫はどんなかんじでやってるんだ」とか、「宇宙人が来たらどうコミュニケーションすればいいんだ」とかは、現実に問う必要に迫られていなかったので、とてものんきで楽しい問いだった。

しかし… 人工知能との接触や交流という局面になって、それは思いがけず現実的で実務的な問いになるのだろう。のんきでも楽しくもないかもしれない。ともあれ、すごいとしか言いようがない。長生きはするものだとしか言いようがない。


もうちょっと話を続けると:

「私たちとは異なる世界の見え方」と言うと抽象的だけど、たとえば、ウニが海中を漂うとしたら、上下・左右といった世界の捉え方はしないかもしれない。

映画『メッセージ』のヘプタポッドも、左右という捉え方は必要ないようだったのを思い出す。それには体の構造が関係している。ヘプタポッドが物を取りに行って戻ってくるとき私たちとちがって体をターンさせる必要がない、といったことが小説「あなたの人生の物語」にも書いてあった。

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 あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)


とはいえ、人工知能と人間の「つきあい」を考えるとき、興味はやはり感情や意識になると思う。猫やパンダとのつきあいでは何らかの感情や意識はあると感じられるし信じられる。しかし、人工知能やパンダの縫いぐるみとのつきあいでは、人間と進化的連続性がないため、感情や意識は想定しにくい。

このように整理すると、人工知能の「知能」の話というのは、とりあえず「感情」や「意識」とはべつの話なのだということも、なんとなくわかってくる。


もう1つだけ。

松尾豊さんと小林康夫さんは、会社組織がなぜか階層構造になるけど、それは人間の認知や言語が階層構造だからだろうという見解で一致し、さらに、しかしまてよ世界そのものは果たして階層構造なんだろうか、と問う。

この話の結論はさておき、人工知能が、たとえばその画像が猫かどうかを判断するときは「猫には頭と胴と手足があり、頭には目があり口がある」といった階層構造を通しては眺めないのかもしれない。X線撮影された肺のガンもただ画像のドットの集まりがどうなっているかだけを眺めるのかもしれない。

それは、言語的な階層構造による世界の認知ではなく、画像的な単一構造による世界の認知、ということになるだろう。人間はそういうふうには世界を眺められない。少なくとも得意ではない。

◎この話はこちらの(2)につながる