東京永久観光

【2019 輪廻転生】

★暖簾/川島雄三


 暖簾 [DVD]


川島雄三『暖簾』、地味なDVDジャケットとは裏腹、画面が動きまくり、あっけにとられた。この監督が地味なわけないか。冒頭のカット、汚い川に架かる橋の上を なぜか馬が連なって駆け抜ける。展開も速く、昆布屋の奉公に入った主人公がタイトル開けにはもう一人前。川島の「川」の字もヤンチャ。

森繁久彌乙羽信子を追いかける、酉の市かなにかの神社の雑踏がまた、息をつけないほど賑やか。そのあと、暖簾分けされた森繁と山田五十鈴の夫婦は、あっという間に商売を広げたとわかるが、それはまさにつかのま、巨大台風が吹き荒れ昆布工場が洪水に襲われる大スペクタクル。室戸台風らしい。

しかし物語はまだ半分。戦争が始まり息子が2人とも出征。そして敗戦。店の焼け跡には出来悪いほうの次男だけが帰還する。これが森繁の二役。おかしな次男はしかし思いがけず店を立て直す。森繁が結ばれなかった乙羽信子の美人の娘が扇千景で、なるほどと思わせつつ、次男は中村メイコとくっつく。

本家の旦那の墓参りにきた森繁と乙羽が偶然再会する軽妙なシーンも忘れがたい。空がさっと明るくなって海のみえる淡路島の墓地で。墓に眠る中村鴈治郎は、そういえば『小早川家の秋』(小津安二郎)でも同じように発作を起こして倒れて死んだ。森繁も新珠三千代浪花千栄子も両方に出演。

浪花千栄子はこの『暖簾』では比類なく人情の薄い本家のおかみ。なんまんだぶなんまんだぶ… 山田五十鈴は森繁と結婚した日の気が強い振る舞いに目を見張った。昆布をかいているところに夜なきうどんの声、森繁は素うどんだが「わたし、しっぽく」。ところが戦後はなぜか柔和になっている。

2つ前のツイートに間違いあり。新珠三千代は『暖簾』には出ていない。新珠は『洲崎パラダイス 赤信号』(同じく川島雄三)のほうだった。

新珠といえば、『細うで繁盛記』のかすかな記憶では真面目で健気な優等生でしかないのに、『洲崎』でも『小早川』でも、弾けまくって見飽きることがない。

いや、『洲崎パラダイス赤信号』のほうが躍動感は100倍か…(またみたばかりなので)