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【2019 輪廻転生】

★平清盛(大河ドラマ)


 NHK大河ドラマ 平清盛 完全版 Blu-ray-BOX 第壱集


NHK大河ドラマ平清盛』を借りて見ている。松山ケンイチの主演。2012年。視聴率は最低レベルだったが高い評判も聞いていたので、いつか視聴したいと思っていた。

これがすこぶる面白い。

武士の始まりがあれほど汚い者たちだったとは! まさに血と泥にまみれた存在。それがなにしろよくわかる。ドラマが嫌われた一因がそれだったというのも感慨深い。

それに対し、宮廷と貴族は風雅にして狡猾、空虚。みごとなコントラストだ。剃った眉毛やお歯黒は狂っているようにも見える。

平安時代大河ドラマで描かれるのは数少ないそうで、実際へーえと感心する光景ばかり。日本史なのにまるで世界史。爛熟した古代ローマに粗暴なゲルマン集団が侵入してきたときも、ちょっとそんな感じだったのだろうか。などと空想も。

松山ケンイチのやんちゃぶりがまた すがすがしい。水を得た魚の体で暴れまわる。そして、そのたとえに同じくふさわしいのが、時代の激流を思う存分泳ぎまくった清盛という人物、というわけだ。

そのノリで海賊船を襲い、宿敵である盗賊と対面し、2人の情念が激突し、勝負がついたら仲間になってしまう。その展開はしかし、熱血スポ根アニメか『男一匹ガキ大将』かと思われた。

九州にある宋との交易所を訪ねた清盛が、銭を初めて手にし、こんなものと引き換えに宝物の数々が得られるなんてと驚く回は、このあいだ貨幣の起源についてちょっと考えていたので、なるほどーと特に興味深かった。(★21世紀の貨幣論/フェリックス マーティン - 東京永久観光

第10話くらいまで来たが、今のところ、1回ごとにサブテーマが浮上しストーリーもなんらか終結する。オンエア時と違って一人で静かに視聴するので、見る前の情報がなにもなくて、毎度驚くことが多い。清盛が白河上皇の子だったかもしれないという伝説も初めて知った。

とりわけ、文武両方に優れ見目麗しくもあった北面の武士の一人が、色仕掛けも行って妙に怪しいと思っていたら、なんと鳥羽上皇の后まで誘惑し御簾の奥に入り込む。あげくに出家。え、どういうこと? そんな奇妙な人物がいたのか。…とネットを調べたら、かの西行その人だった。そうだったのか。

出家を決意して清盛の前で歌った一首が忘れられない。「身を捨つる人はまことに捨つるかは 捨てぬ人こそ捨つるなりけれ」

男女交際事情の面では、深田恭子が出てきて清盛に出くわすので、そうかそういうことかと思いきや、後から加藤あいとの出会いもあって、あっけなく彼女と結びついてしまう。このとき、加藤あいが歌の手紙を交わして清盛を拒む様子だったのを、清盛は相手の家に乗り込んで俺と結婚してくれと直談判する。ここにも貴族式と武士式の対照性をしのばせているのだろう。さてしかし、じゃあ深田恭子は何だったのか。そう首をひねっていると、なんと最愛の妻は はやりの病で死んでしまったではないか。そこに再び深田恭子の影。そうかそういうことか… 同時期に見てないと やっぱり初々しく視聴できる。だいたい松田聖子が宮廷に居座っていることも知らなかった。

先が楽しみ。


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ところで、最近手にした以下の本が宋に注目していたのを思い出し、そうかと膝をたたく。
 ・中国化する日本 http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20131102/p1
 ・人類5万年 文明の興亡 http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20150705/p1

宋は西洋でいえばルネサンスに当たる新時代を切り開いたというのだ(清盛のころはすでに衰退期だったようだが)

『アジア史概説』という本にはそれをズバリ示した図表が示されているそうだ。
 ◎http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2015/07/post-9007.html


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全50話、鑑賞を終えた(8.20)。最初から最後まで面白く飽きなかった。

清盛は武士が頂に立つおもしろき世を目指した。しかしそれには純真な青年の志だけでは足りなかった。俗悪な旧勢力との結託、修羅を自覚した非情手段も厭わなかった。さらに晩年は慢心や自己愛と区別のつかない専横ぶりが目立った。ついに登りつめたこの世の頂だったが、それは武士の本義から離れることで達したものとも言える。その頂からの眺めを問われ、清盛は「何も見えない」とつぶやいた。

平安末期の武士、朝廷、貴族そして地方豪族などの実態が、初めて実感できた。院政という特殊で強引な権力、后などの女性とその姻戚関係の影響力、寺院の僧兵たちの厄介さ、これらの複雑で隠微な関係もかいま見えた。

最後の感想はやっぱり、諸行無常…。