この問題の深く簡潔なまとめだと思われる。印象的だったこと、いくつか。
・夫と別れてシングルになる人が多いわけだが、ところが夫と別れてむしろ楽になったという例が少なくないこと。精神的にも経済的にもだ。
《小百合さんは今、夫に起因するストレスがないから幸せだと話す。少なくとも目の前のお金がない心配だけはなくなったのが良かった。夫がいたときは、ひたすら生活費が減るだけだったら、とも。シングルマザーになって、各種扶助が受けやすくなったのも良かったという話が印象的だった》
意外だがたしかにそうかもしれない。
・母性神話が大きいという指摘
《日本では、女性に「母性」が備わっていてしかるべきという社会通念が強い。宗教が冠婚葬祭の儀礼以上の意味が希薄なこの国で、「母性神話」は最も強い「信仰」なのかもしれない。それゆえ、ある意味では人の道からは擦れること以上に、母の道から外れることに対して厳しい非難の声があがる。それはまるで、異端者への排撃のようにも見える……とは、少々大仰だろうか》
ベビーシッターに長男を預けて殺された母親へのバッシング(昨年)に絡めて語られている。
・安倍政権の女性活用提言への違和感
《そもそもこの少子化は、旧来の家族観と現実の家族のあり方とのずれや歪みから生じた問題である。多くの政策論は、その前提を疑わず、旧来の器に現実の人々の生活を入れ込もうとしているようにみえる》
《一言で言えば、これらの政策提言は、既存の「所属」の枠組みを越え出てはいない。それどころか、むしろ補強する方向へと向かっているように見える点が問題である》
・根強い日本の文化規範
最終章。日本の結婚観・家族観というさらに広く深い視点からの考察。
《何もかもが「結婚システム」を中心に出来上がった国、それが70年代の日本だった》
・母子世帯に限らずワーキングプアが多いことが日本の貧困の特徴だという。非正規労働者が多いことに起因する。
よくある指摘のようだが、待てよと目が止まった。これはつまり「働けど働けど我が暮らし楽にならざる」が世界中同じかというと案外そうではなく、日本が特にひどいということだ。でも、だとしたら、なぜなんだろう?
同書の主旨から離れつつも少し思案した。そしてこう推測した。
諸外国は失業率は高いがワープアは少ない、日本は失業率は高くないがワープアは多い、ということではないか。もっと言えば、「ワープアになるくらいなら仕事なんかしてられるかバカやろ」と思い切ったり憤ったりする人が、日本は諸外国に比べて少ないということではないか。
というわけで、「ブラック企業でも我慢して勤めざるをえない」という事情はあろうが、「ブラック企業なんか我慢せずとっとと辞めてしまえ」という心性がもっともっと大きくなれば、やがてはブラック企業はつぶれ、おそろしい薄給も改善されるという道筋があるだろう。
私は最近「雇用の流動化こそ現在の日本の最重要課題の1つ」と考えるようになったので、こうした話はスルーできないのだ。関連してさらに言えば、非正規労働者の待遇改善は「正規労働者なんてオフィスに縛られストレスがたまるばかりでちっとも得じゃない」という状況が訪れることによってなら実現するだろう。竹中平蔵の「正社員をなくしましょう」発言も、この文脈から捉えることもできる(http://www.bengo4.com/topics/2523/)