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【2019 輪廻転生】

正月大全


人間と昆虫では体の造りが正反対だ。体の中心を通る消化管からみると、人間は心臓が腹側にあり神経が背中側を走っている。しかし、昆虫は心臓が背側で神経が腹側だ。

ところが、この「心臓/消化管/神経」と「神経/消化管/心臓」の2つを、心臓と神経の位置が入れ替わっただけと捉えれば、体を造るマスタープランとしては同一なのだと言える。

これは、あらゆる言語には共通の普遍文法があるとチョムスキーが考えたことに似ている。英語の「私/食べる/昆虫」と、日本語の「私/昆虫/食べる」とで、実際の語順は異なるが、文法のいわばマスタープランは同一だというのだから。


そんなことに気づいたり、餅を食べたりしている。


『進化大全』によれば、脊椎動物にも節足動物にも共通のマスターブランが遺伝子のセットとしてすでに固まっていたからこそ、カンブリア紀の進化爆発(ものすごく多様な動物が一気に出そろったこと)も可能だった。

つまり、優れたマスタープランが基礎にあったからこそ、「何でもあり」のイノベーションが起こった。

しかし、こうした優れたマスタープランは諸刃の剣でもある。

《爆発的な進化が終息する背景には、それを可能にした遺伝システムの複雑さが逆に足かせになるということもありうる》

《一つの遺伝子がいくつもの異なる仕事に関与するようになると、それ以後の変更は難しくなる。その遺伝子が関与する一つの構造を改良するような突然変異が起きても、それはほかの構造を完全に破壊してしまうものかもしれない。カンブリア紀のはじめと終わりの時点での進化の起こり方は、平屋の改造と高層ビルの改造にともなう難易度のちがいにたとえられるかもしれない》


進化論が汎用性を持つのと同じく、上記の引用もまた実に様々な事象に当てはまる。


日々の仕事や家事のマニュアルも、スマートフォンやソーシャルネットサービスの設計も、国家100年の大計も。

たとえば、東京都の知事が選ばれるまでのプロセスも、多数の政党や有象無象の候補者や無数の有権者のあれやこれやの思惑が有機的に絡みまくり、おそろしく複雑に思えるが、実は決まりきった遺伝子のセットのごとく、毎度同じプログラムどおりに発現していくだけなので、ちょっとぐらい変なやつが出たり変なことを言ったりしても、どうせすぐに淘汰され、新種の知事はめったに誕生しない。


◎進化大全/カール・ジンマー
 「進化」大全