★マイライフ・アズ・ア・ドッグ/ラッセ・ハルストレム(スウェーデン・1983)
大好きな母親が病気になりついにはお別れしなければならなくなる。話したいことがもっともっとあったのに。少年イングマルはそんな自らの境遇について、ソ連の人工衛星スプートニクに乗せられて地球をぐるぐる周りやがて餓死したライカ犬より「ましだ」と独白する。
この独白は原作の小説にもともとあるのだろう。それにしても、映像がつながって成立していく映画においてナレーションがこれほど絶妙であることをどう評価してよいのか、迷うところはある。しかし、繰り返される独白がこれほど心にしみるのは、映画自体が絶妙にすばらしくなければかなわぬことだと思い返す。
子どもが夏 親戚の田舎で過ごし奇妙な人や出来事に出会うのは、『冬冬の夏休み』と同じ。しかし『マイライフ…』はそうした遭遇を示していく手数が多く、主人公の内面も前面に出て、全体に饒舌に感じられる。『冬冬…』も『マイライフ…』もどちらも甲乙つけがたいが、ホウシャオシェンの語りはやっぱり独特なのだと思う。そういえば、『冬冬…』も母親が病気で入院していたのに『マイライフ…』とは正反対にうっすらとした心配を漂わせるだけでそれ以上触れないままだった。
そんなわけで、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』のほうはエピソードのひとつひとつがとても細やかにつづられ重なり合っていく。さらにそれらが夏、秋、冬、再び夏と大きなストーリー展開に組み上げられ、そして「着地」する!
ストーリーのピークは、タイトルのとおりイングマルが思わず「犬になってしまう」場面だろうか。連続パンチに耐えぬいた健気な心もとうとう限界を超えてしまうのだ。
スウェーデンという国とその田舎。1950年代末という時代。そんなことへの興味も強くかきたてられる。サッカーワールドカップやボクシングの世界選手権をめぐる国民の沸騰――私は想像するしかないのだが、それらが織り込まれるところも、この映画を間違いなく捨てがたいものにしていると思う。
「昔おもしろいと思ったけど話をほとんど忘れている映画を久々にみよう」プロジェクトの一環。これは大当たり。本当に好い映画だった。
同じ監督の『サイダー・ハウス・ルール』も好かった。これも原作は小説だ(ジョン・アーヴィング)。
さて、「ラッセ・ハルストレム」というはスウェーデンの名前うまく言えないなあと思っていたら、こんなドラマがあったのか。
久々に目にした根津甚八や秋吉久美子の若い姿が荒々しくも美しく映える。ところが、山口美也子や蟹江敬三がまた ほの暗い心情を喚起していっそう強烈だった。
稲刈りで昼飯を田んぼで食べ、家のわきには豚を飼っている。一方、コンビナート建設のために大型トラックが道路を連なって走る。農業から工業へのシフト。20世紀においてあらゆる国が被らざるをえなかった変化であり、これをめぐる映画も無数に作られてきたのだろうが、出色の一作だと言いたい。長谷川和彦『青春の殺人者』や根岸吉太郎『遠雷』も思い出される。
現在のグローバル化はこれに匹敵する変化なのかも。
亀虫テイスト炸裂。困った連中ばかりのなかで1人だけ正気で強気の人物を演じさせるなら小池栄子。音楽のオフビート感が映画のオフビート感とぴったり一致。
★東京物語/小津安二郎(1953)
→ http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20110716/p1
★サイコ/アルフレッド・ヒッチコック(1960)
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↑ 映画DVD鑑賞記録 2011年(1)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20110610/p1
↓ 映画DVD鑑賞記録 2011年(3)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20110927/p1