東京永久観光

【2019 輪廻転生】

エアコンをつけたまま寝る非国民


「非国民」などという感覚がなくならないのはどうかしていると思うが、そう簡単になくなるとも思えない、2011年の夏。

停電したらとんでもないことになるとしても、非国民などという感覚がなくなるなら、コストとパフォーマンスにおいて見合っているのではないか。

快適な暮らしがガタガタになるのを我慢してまで、なにがなんでも原発を捨て去りたいとは思わないが、非国民などという感覚がなくなるのであれば、停電も非経済もがまんする値打ちがあると、私は思う!

…今、なんか、ちょっと複雑なことを言った気がする。

それと、やけくそで言っている気もする。どうせ「非国民という感覚」はなくならないだろうという諦めがあるから。どうせ「原発賛成と原発反対の論争」はうまくかみあわないだろうという諦めがあるから。

ぼくらはそれでも電気を使う

…じゃなくて『ぼくらはそれでも肉を食う』という本がある。山形浩生が訳しそうな内容であるが、実際にそう。asin:4760139621

要するに、トキとかクジラは絶滅させてはいけないと思うが、家の蚊とかゴキブリは絶滅させたいと思う。それが私たちである(引用ではない)、といった話。

要するに、動物に対する私たちの理屈や感情は「矛盾している」のだ。

じゃあ、「矛盾してるから、矛盾しないようにしようか」とすると、とりあえずかなりの軋轢とか戸惑いが起こるのも、間違いない。

矛盾しているけれど、ひとつひとつそう思うとおりに信じてやるしかない、という気がしてくる。いろんな動物をかわいがり、同時にいろんな動物を食べるしかない。

さてここで原発論争に目を向けると、原発に否定的な側の意見には、矛盾して一貫性がないと思うことがよくある。一方、原発に肯定的な側の意見には、矛盾がなく一貫性がある。そんなことをふと思った。

でもまあ、原発は善なのか悪なのか、放射線を気にするか気にしないか、といったことにおいて、私たちが一貫性がなく矛盾した言動をとることは、それはそれで正解なのではないかと、きょう思い至った次第。

矛盾というなら、だれかやなにかを愛したり憎んだりなんてのが、まったく一貫性がなく矛盾していることの最たるものではないか、ということも最近おもう。

パソコンが風邪をひいたりうつ病になったりしないように、パソコンは特定のユーザーを愛したり憎んだりはしないだろう(しているように感じることはあるにしても)
しかしここで問うべきはこういうことかもしれない。「だからこそ、エネルギー政策や放射線の将来はパソコンに判断させるな」なのか、まったく逆に「だからこそ、エネルギー政策や放射線の将来はパソコンに判断させろ」なのか、と。

人間は何ゆえ原発などというややこしいものを作ってしまったのか、といった問いがあるが、それよりも私は、そもそも人間のこころは何ゆえこうもややこしいのか、と文句を言いたい。

おそらく猫やクジラや蚊やゴキブリは、ここまでややこしい心はもっていないだろう。生物進化としてはこれほど複雑な脳神経系は無駄である可能性も高い。

無駄だからといって捨てられはしないのだから、つきあっていくしかない。

千年くらい先には、遺伝子工学が進み、また「人間」のイメージもがらりと変化し、風邪をひくような体やうつ病になるような心は、無駄だから遺伝子をいじって生まれた時点で除去してしまいましょう、というような時代になっていないともかぎらない。

それはさすがに行き過ぎだろうと、とりあえず今の私は感じるわけだが、それでも、風邪やうつ病を薬で抑えることが行き過ぎだとは感じない。

そうやっぱり、矛盾しているのだ。私の感じ方は。

放射性廃棄物はロケットで宇宙の彼方に飛ばしたらどうかという意見がある。もし本当にそうするしかない、そうしないと私が死んでしまうとか、私ではないかどこかの国のだれかが死んでしまうということになれば、その方法を私たちは選択するのではないだろうか。


話が拡散してきたので、いきなり結論を2つ。


(1)人は80年くらいで死んでしまうから、いろいろややこしいのではないか。永久に生きられる、または、そうではなくても800年くらい生きられるようになると、愛したり憎んだりという心もがらり様変わりするかもしれない。原発への態度もいろいろ変わるかもしれない。


(2)そもそも人の心はややこしい。その点においては、原発賛成の人も原発反対の人も似ているように思う。私たちの心は犬や猫や蚊やゴキブリの心とは違う。そこまで離れなくても、数万年前の人間に比べてみたって、現代人の心はみな本当に似ているように思われる。

ところが、それでもなお、原発賛成の人と原発反対の人とでは、絶望的なまでにそりが合わないようにもみえる。相手はゴキブリではないのに。相手は原始人でもないのに。相手は人工知能でもないのに。