東京永久観光

【2019 輪廻転生】

映画DVD鑑賞記録 2010年(5)


息もできない/ヤン・イクチュン(2008 韓国)
 息もできない

ことし日本公開され熱烈な支持を集めたようす。もちろん私も、絶賛の長い列の最後尾に迷わず並びたい。『空中キャンプ』の「2010年の映画をふりかえる」では5位(http://d.hatena.ne.jp/zoot32/20101229#p1

見どころはたくさんあったが、女子高生ヨニのふて腐れた顔が、私にとっては最大のポイントだったかも。ヤクザ男サンフンの顔のほうは、冒頭現れた時点では「うへ〜」という嫌悪感しかなかったのに、いつしか正反対の顔として感情移入しているのが、不思議だ。(さてもしも、サンフンの役を、海老蔵さんを殴ったとされるかのリオンさんが演じたとしたら、同じく感情移入できただろうか、などとあまりにつまらないことを考えるのは、よそう)

=ちょっとネタバレ= ハッピーエンドではないわけだが、バッドエンドですらないと言うべきかも。というのは、最悪の展開はラストシーンに続いて始まるとも考えられるから。ヨニのあのなにかが全壊していく寸前の不気味な表情…。

◎公式サイト http://www.bitters.co.jp/ikimodekinai/



フローズン・リバーコートニー・ハント(2008 米国)
 フローズン・リバー [DVD]

アメリカとカナダの国境ではあんな人たちがあんなふうに暮らしているのか。…という基礎情報がすでに驚きの連続だった。その上に、予想のつかない出来事が次から次へと起こるので、ただ唖然。そのなかで、彼女たちは、生きて最低限の望みを捨てずにいるためだけに必死の苦労を続ける。私のいる社会とはかなり異なる様相ではあるが、それはじわじわとリアルに迫り、とても身につまされた。

映画が終わりに近づくにつれ、「ハッピーエンドになるのか、そうではないのか」と気になった。どちらで終わってもモヤモヤした気持ちが残りそうで。はたして…(ぜひ鑑賞を)

フローズン・リバー」と「息もできない」はともに12月になって相次いで見たのだが、甲乙つけがたく素晴らしい。ともに今年のベストと言いたい。どちらもインディペンデントで、監督が自らの半生や見聞を下敷きに渾身の映画作りをしているらしいのが、また非常によい。なお「フローズン・リバー」はサンダンス映画祭グランプリほか受賞多数とのこと。

◎公式サイト http://www.astaire.co.jp/frozenriver/



グラン・トリノクリント・イーストウッド(2009)
 グラン・トリノ [DVD]

DVDで2度目の鑑賞。やっぱりいい映画だと思った。おかしなことに、この良さは「息もできない」や「フローズン・リバー」と同じような良さだ。「有名映画は無名映画より無条件で面白い」などという法則が存在しないことを、我々は経験上よく知っている。しかし逆に、「有名映画だからといって必ずしも無名映画に劣るわけではない」ことを、クリント・イーストウッドがこのところ何度も証明している。そう言えるのではないか。



 * 以下は新しくもない映画ばかりだが、今年みたので今年のうちにまとめておく次第。



夕陽のガンマンセルジオ・レオーネ(1966)
 続 夕陽のガンマン アルティメット・エディション [DVD]

自分が捕まえて差し出したならず者が首を吊られる寸前、その縄を遠くから銃で狙って切り離す。手錠でつながれた相手と一緒に列車から飛び降り、さらに線路上にその手錠の鎖を置き、通過する列車の車輪で断ち切る。向こうから群れをなしてやってきた北軍の青い制服が、土埃のせいで灰色に見えたため、つい「リー将軍、万歳!」と間抜けな間違いをしてしまう。――などなど、もう神話というか叙事詩というか御伽草子というか、そんな域に達するシーンが目白押しなのは、ご存じのとおり。

そうしたエピソードや人物像は、じつにまあうまく練られ作り上げられている(れいの「匠」というやつか)。というか、出来すぎ、調子よすぎ。でも「それこそが西部劇の偽物たるマカロニウェスタンの真骨頂かな」と、まるでファミレスでメニューを食べ尽くしているような楽しさに身をゆだねる

ところが! それがいくつもいくつも連続するうちに、気がつけば、娯楽映画として予測される枠をなんだかはみ出している。そうして、たかだか一本の映画を包んでいたはずの私の心は、いつしかその映画に逆に完全に包まれてしまっている。物語とは、いつもそうした「うねり」のような過剰さや見通しのなさにこそ美点があるのだろうか。『ワイルドバンチ』でもなんかそんなことを感じた。

というわけで、傑作。掛け値なし。

それにしても、銃は言葉に代わるコミュニケーションの役割すら担う。小鳥はさえずり、犬はほえ、私はツイートするが、クリント・イーストウッドはいつも無言でズドン。しかしいろいろ複雑な思いはその一発でみごと相手に届く。それは映画という記号システムにおける文法の代表でもあるのか。

『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続 夕陽のガンマン』は、レオーネ監督、イーストウッド主演、そしてエンニオ・モリコーネ音楽の「三部作」としてまとめられることが多いが、それぞれ内容は独立している。そして、最近3つともDVDで改めてみたのだが、この「続 夕陽のガンマン」がぶっちぎりの面白さだった。タランティーノ監督は「今まで見た中で最高の映画の一つ」と言っているらしいが、いやほんとだよね! (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B6%9A%E3%83%BB%E5%A4%95%E9%99%BD%E3%81%AE%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%B3



夕陽のガンマンセルジオ・レオーネ(1965)



ショート・カッツ/ロバート・アルトマン(1993)
 ショート・カッツ [DVD]

レイモンド・カーヴァーの短編小説を読んだ感触は鮮烈だがきわめて独特で、しかもそれを自分の私的な印象を超えた言葉にして他人に伝えようとすれば、すっと消えていってしまうような気がしていた。でもこの映画を通してなら共有できると思えた。それはロバート・アルトマンレイモンド・カーヴァー両者の独特の感受性がどこかで見事合致しているからかもしれない。あるいはそうではなく、そもそも小説とはべつに神秘ではなく、人物や状況や出来事の説明の描写や交わされる台詞などによってすべてが作られるのだから、そうした人物や状況や出来事や台詞をいくらかでも再現すれば、小説を読んだ感触というのは案外するすると立ち上がるのかもしれない。ひとつ違和感を覚えたのは、カーヴァーの小説においては、最も抜き差しならない最悪の事態が、べつに殺人や自殺ではないのではないかという点。



さらば箱舟/寺山修司1984
 さらば箱舟 [DVD]

公開時に映画館で見て以来だと思うが、隅から隅まで驚愕の面白さ。何がそれほど面白いのかというと、なんのことはない、象徴、寓意、比喩といったことだ。寺山修司のそういうところが私は無性に好きなのだろう。だいたいわかっていたが、それを改めて確信した。

ずっと以前、寺山の別の映画『田園に死す』を一緒に見た人が、「高校生の文化祭みたいだ」と評したことがある。たしかに、こうした象徴表現の連続は高校生が好みそうかもしれない。『さらば箱舟』にもその傾向は強く残っている。しかし、今なおそういうものが面白い私はどうしたらいいのだろう。べつに老成しなくてもよいとも言えるが。

ちなみに、『田園に死す』の感想はこちら。→http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20040414

ところで、「よくわからない映画」に少しでも近づくには、ストーリー把握という愚直な努力をバカにしてはいけない。そこで、毎度すばらしいGooのあらすじを――。http://movie.goo.ne.jp/movies/p17502/story.html(さらば箱舟)

ちなみに、このころ「人間だけは自然を生きるのではなく物語を生きる」と指摘したブログの記事を読んだ(http://d.hatena.ne.jp/pikarrr/20101104#p1) 「人が人であるとはその人だけの一つの物語を持つことです。そして物語は結ばれなければ物語ではありません」と述べる。核心的な洞察だと思った。

そもそも我々は自分の世界観や世界像を「あらすじ=物語」によってこそ作り上げるのかもしれない。したがって、「その映画の世界」といった大げさなものがあるならば、それを紹介するのに「最も効果的で最も正しい方法」を、gooの「あらすじ」は示しているのかもしれない。

そして、「物語」が根本的な何かであるのと同じくらい、「比喩・象徴・類似」もまた、この世がどうなっているのかを把握する手段として、やっぱり欠かせない根本的な何かであると、私はだんだん強く感じるようになってきた。これについてはまたいずれ。



サード/東陽一(1978)
 サード [DVD]

70年代後期、永島敏行と森下愛子は本当にひっぱりだこだったようだ。同年のキネマ旬報ベスト10では『サード』が第1位で、さらに4位『事件』と5位『帰らざる日々』でも永島敏行が主演している。森下愛子は翌年『もっとしなやかに、もっとしたたかに』『十八歳、海へ』などで出ずっぱりになる。しかし今ではすっかり忘れられた映画史にもみえる。もっと古いたとえば50年代や60年代の映画になると、今なおよく視聴されよく語られているようなのに、不思議だ。

ともあれそんなわけで、誰もが知っている観光地より存在も知らなかった観光地を偶然訪れたほうが、新鮮な驚きを運んでくるのは間違いない。(だからおすすめ)

それはそれとして、この映画を企画した狙い(というものがあったとしての話だが)がよくわからないというのも、この映画の特徴かもしれない。永島敏行が演じる青年の本心もなんだかよくわからない。だからいろいろ消化不良なのだが、それと裏腹に、個々の出来事やその場面はとても強烈で、そのアンバランスのせいか、落ち着かない気持ちがずっと持続し、結局のところ他に似たものがない映画として記憶に残る。公開から間もなく名画座で見たと思うが、もう一回見たいとずっと思っていたのは、そんな独自の記憶を確かめたかったのだろう。今回見直してその正体は明示できないが、ともあれやっぱり忘れがたい映画にはなった。

一応言っておくが、脚本は寺山修司。…いや、この映画の独特の味わいは、やっぱりそこに最も大きく依拠しているのか。

『事件』の感想はこちら。→http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20101123/p1



噂の女/溝口健二(1954)
 溝口健二 大映作品集Vol.1 1951-1954 [DVD]

宴席の座敷をかねた置屋の話なので、ややこしい造りの日本家屋の中を役者が行ったり来たりする複雑さが面白かった(猫がややこしい場所に好奇心を示すみたいなことだが) 古い映画の傾向かもしれないが、舞台における演技を眺めているようなところもあった。成瀬巳喜男『流れる』とイメージがかぶるが、私としては、脇目もふらず最後まで見てしまう度合いにおいて『流れる』のほうが優った。主役である田中絹代久我美子の親子の葛藤以上に、病気になって死んでしまう芸者のほうに同情してしまった。



羅生門黒澤明(1950)
 羅生門 デラックス版 [DVD]

ヴェネツィア映画祭グランプリ、戦後日本映画を世界に知らしめたいわゆる金字塔、なのだが、ちゃんと見ていなかったので。当時ヨーロッパの人は三船敏郎を見てアンソニー・クインみたいに思ったのだろうか。しかし、黒澤明の大げさな感じがこの一作ではどうも好ましく感じなかった。羅生門の作り物はすごい。雨は降りすぎじゃないか(映画だから仕方ないか)  



地獄の黙示録/フランシス・F・コッポラ(1979)
 地獄の黙示録 特別完全版 [DVD]

これも通して見たことがなかったので。1980年の特別完全版。アメリカの戦争を私は体験したことがないわけだが、アメリカの戦争映画やアメリカの戦争報道を見聞きする体験だけはどんどん積み重なっていく(だから何だということもないが)



理由/大林宣彦(2004)
 理由 特別版 [DVD]

宮部みゆきの原作が面白かったことから鑑賞。特異な手法が目立つ作品だった。大林監督はなんとなく日本映画のメインストリームからは外れた人かなと思うようになっていたが、久しぶりの一作を見て、また付録の監督のコメントも聞いて、そうでもないかと思い直している。



カプリコン1 (1977)
 カプリコン・1(ワン) [DVD]

ツタヤで「面白くなかったら金返します」として並べられていた。昔みてストーリーはよく知っているが、やっぱり面白い。映画なんて「ただ面白い」のが最高ともいえるが、そういう意味では最高。



★人の砂漠(2010)
 http://www.fnm.geidai.ac.jp/hitonosabaku/main/



マルコヴィッチの穴スパイク・ジョーンズ(1999)



渚にてスタンリー・クレイマー(1959)


 *


・公開年をWikipediaなどで調べ(  )に記しているが、正確には各自ご確認を



↑ 映画DVD鑑賞記録 2010年(4)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20101123/p1

↓ 映画DVD鑑賞記録 2011年(1)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20110610/p1