東京永久観光

【2019 輪廻転生】

映画DVD鑑賞記録 2010年(3)=劇場含む=


インセプションクリストファー・ノーラン
 インセプション [DVD]

劇場で見てきた。最初、年老いた渡辺謙が出てくるけど、あれは何だったのか、というところが全体の理解のキイになるようだ。夢ということの、いわれてみればそのとおりの事実をいくつか踏まえていて、なるほどなあという展開。

<ネタバレ>デカプリオが妻とついに別れを決意した理由が、「これは夢であり幻なのだから」ではなく、「これは夢であり幻であるとしても、実質的にわれわれは50年を一緒に生きたのだから、もう十分じゃないか」というものだったのが、個人的には最も印象的だった。

自閉した世界を独りで作り上げ、そこにとどまるべきか、そこから出るべきか問うという設定は、私としては『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を思い出させた。あの海岸で崩れ落ちる巨大ビル廃墟群はみごとな眺めだったが、森の中に一角獣や図書館が存在する世界はいっそう味わい深かった。

最後のエディット・ピアフの歌声が、痛切で、しかし、情は深く、耳に残る。『未来世紀ブラジル』も、最後あんなイメージの歌で終わらなかったっけ?

パリやモロッコとともに、日本人と日本が主要な一部になっているのは、やっぱりうれしいものだ。ただのバランス感覚や、エキゾチズムかもしれないが、それでも、アメリカ映画にとって(監督はイギリス出身だが)、日本趣味はそれなりに妙な位置として今もあり続けているのだろう。

海外では日本といえば今やアニメや秋葉原がダントツで有名みたいだが、その日本に実際に住むひとりである私は、日本の趣味や習俗として、アニメや秋葉原が代表的であるとも好ましいとも、まったく感じないので、西洋の方々にももっと頑張って日本をいろいろ発見してもらいたい。

日本とアメリカ、日本と西洋の違いというのは、とても大きいのだ。日本は西洋ではなく、アラブでもトルコでもイランでもインドでもなく、同じ東アジアでも中国や韓国とも全然違う。南米などはもっと違うのだろう。それはたぶん、東京と大阪の違いや、東京と福井の違いなどとは比べものにならない。

もちろん、映画の舞台や人物や設定が、アメリカ一辺倒というのは、とにかくどうにかしてほしい問題だ。胡蝶の夢みたいな趣向を現代に当てはめた中国映画があれば、面白いか・・・ でも中国は、アメリカのオルタナティブになるのではなく、なにかとただのアメリカになりそうで、うっとうしい。


韓国映画はDVDで最近『母なる証明』と『チェイサー』。『母なる証明』は、あっと驚くが、後を引くもやもやは『殺人の追憶』のほうが上。『チェイサー』も面白かったが、見終わるとさっさと忘れる。社会派韓国映画で今のところ「シークレットサンシャイン」と「ペパーミントキャンディ」がベストか。


チェイサー/ナ・ホンジン 
 チェイサー [DVD]
http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20090512 これ読んでいたら、上に書いた以上に面白かったかな、という気がしてきた。たしかに、金づちで頭を殴るというのは、怖い。


母なる証明/ポン。ジュノ
 母なる証明 スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]
母は吉行和子、息子は木村拓哉の顔に似ていなくもなかったので、今そんなふうに記憶されている。映画で出てくる韓国の貧困家庭はなんとなく見につまされる(他国の映画ではあまりそういうことがない)のは、やっぱり日本とどこか似ているのか?


ヴィヨンの妻根岸吉太郎
 ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~ [DVD]
太宰治が本当に好きな人は、浅野忠信が本当に好きな人とある程度かぶるだろうが、松たか子が本当に好きな人とはあまりかぶらないのではないか。しかしともかく、太宰治の独特の好さというのは、確実に存在する。それをやっぱり思い出す。『パンドラの匣』もそうだった


孔雀/クー・チャンウェイ
 孔雀 我が家の風景 [DVD]

これもだいぶ忘れたのだが、以下のブログ2つが特に高く評価しているので、改めて気になっている。

http://blog.livedoor.jp/tsubuanco/archives/51002665.html http://pointbreak.blog66.fc2.com/blog-entry-94.html


プール/大森美香 
 プール [DVD]
小林聡美もたいまさこで、『かもめ食堂』『めがね』の系譜と思われる。その独特世界の心地よさは、今回も、現実世界がもつマイナスの物質や観念がすっかり欠落した「天国」の印象。あるいは、現実世界から無理やり遠く離れた「旅先」の印象。後者は生きているあいだに実現可能。


放送禁止 劇場版〜ニッポンの大家族
 放送禁止 劇場版 ~ニッポンの大家族 Saiko! The Large family [DVD]
カナダ人の視線を信じた(現代では珍しく純情バカな)私は、なんだなんだと心が騒いで、あっと驚いた。仕掛けがわかってしまえば、あとはどうなんだろうか。渡辺文樹の映画みたいな、底知れぬ気持ち悪さは、もっとすごかった気がする。ザザンボとか島国根性とか。


藍色夏恋/イー・ツーイェン(2002)
 藍色夏恋 [DVD]
台湾の典型さわやか青春映画かと思いきや、ジェンダーの問題が絡んできて、ちょいとややこしくなっていく。


ディーバ/ジャン・ジャック・ベネックス
 ディーバ <製作30周年記念 HDリマスター・エディション> [DVD]
10年以上昔にみた映画。「面白かった」という第一印象の記憶というのは、いつまでも残るものであり、その印象はあまり外れない。どうして人間の脳はそんなことができるのかが不思議。(ただし外れることもある。人間は変わるということ証明?)

ということで、ストーリーはほぼ忘れていたのだが。いかにもフランス映画風(と当時も今回もそう思った)のかっこよさと、キャスリーン・バトルの歌声の良さと、それと、まったくとりえのない日本郵便とちがって、仏蘭西郵便は、ただの制服や配達バイクが、なぜかかっこよく見えることは、覚えていた。

ジャン・ジャック・ベネックスは、『ベティ・ブルー』の監督で、これが長編デビュー作だったそうだ。リュック・ベッソンと名前が似ているからといって、しかも『ベティブルー』は『グラン・ブルー』と名前も似ているからといって、一緒にしてはいけない。ベティ・ブルーとディーバは非常に好みの映画。

というか、ジャン・ジャック・ベネックスと、リュック・ベッソンを混ぜると、じゃん・リュック・ゴダール? ホン・ジュノとホン・サンスと、ホ・ジノとか、シン・ガンスとか。シン・ガンスはたしか、元北朝鮮工作員

北朝鮮工作員といえば、キム・ヒョンヒ。まえに25年ぶりの同窓会で、私は、日本に帰ってきた拉致被害者の人たちに似た気分を味わった。というか、なんだか、夢や幻のような(あるいは映画のような、インセプションのような)話が、本当にあるということが、拉致事件の、ものすごいところだ。


独立愚連隊/岡本喜八(1959) 
 独立愚連隊 [DVD]
岡本喜八、初体験。古い日本の映画を発掘して得られるとんでもない刺激というのは、まるで、今まで知らなかった国に行くくらいのインパクトはある。むかし、パキスタンから中国に西から入国したら、ここっていったいどこの国?(ウイグル自治区)と思った。


赤い天使/増村保造(1966) 若尾文子主演
  赤い天使 [DVD]
ということで、これも掘り出し物。某ツタヤのお薦めコーナーにあった。その勢いで『妻は告白する』(同監督、同女優)も見た。『赤い天使』のほうが、面白い。『妻は告白する』は、全体に当たり前すぎる展開だった。


海角七号(2008 台湾)
 海角七号/君想う、国境の南 [DVD]
登場人物の多彩さが面白い。先住民という設定の男が出ていたりするのも面白い。しかし、大戦前に台湾にいた日本人教師と台湾人の教え子と恋は、その多彩な展開に対して絡むわけではない。

たとえば、日本の郵便は赤だが、フランスの郵便は黄、台湾の郵便は緑、といったが実地でわかるのも、映画のよさ。

それにしても、台湾という国はかつて日本だったのだ。そのことをわれわれはたいてい忘れている。というか、最初からそれをきちんと習ったりした覚えもない。こんなに重要な近代史が、自然に身につくようになってこなかったのは、ひとえに、植民地を失ってそれが目の前からさっぱり消えたせいだろう

むかしの日本地図は台湾や朝鮮も赤く塗られていた。中国にもあんなに多くの日本人がいた(独立愚連隊や赤い天使)。満州という近代としては希にみる「うそからでたまこと」みたいな、「インセプションの虚無に落ち込んだ夫婦か」みたいな、奇々怪々な歴史すらあった。

戦後の日本はその戦時の記憶を、忌まわしさゆえか、きれいさっぱり忘れさった。そして、現代の私たちは、それを忘れさったことすら、たぶん忘れ去った。世紀が変わるというのは、そういうものなのだろう。人が一生を過ごす間には、周囲の世界は、本当に変化してしまうのだ。

長島と王がいた巨人と、今の巨人が同じだととらえるほうが、おかしい。それと同じで、今の日本が、昔の日本と同じだとおもうほうがおかしいのだ。オリンピックで日本を応援するというのは、われわれの日常生活の一部なので、正しいも正しくないもないが、いろんな錯覚に支えられてはいる。

要するに、「俺は日本人が嫌いだ」と言っても、ぜんぜんかまわない、ということだ。というか、今の10代、20代の人は、むしろまるきり異人さんなのだと思われる。


男性・女性/ジャン・リュック・ゴダール 
 男性・女性 [DVD]
これまたいかにもゴダール。気に入ったものは、ただそのまま撮り続ければいいし、主張したいことは単純なスローガンにして叫んだり書いたりすればいいし、相手に聞きたいことはただ質問して聞けばいい、といったことを思った。


さよなら子供たちルイ・マル  
 さよなら子供たち【HDニューマスター版】 [DVD]
今ごろやっとみた。この前話をしたフランス人が薦めていたので。ルイ・マル監督、55歳の作品らしい。人には、やはり原点というのが、どこかにある。そしてそれは、かの戦争の世代であれば、やはりあの戦争をめぐっているのだろう。

このことは何度も書いているが、20世紀において、もっともドラマになりやすいのはあの戦争だったと思う。その次は経済成長か。しかし、あのような戦争やこのような経済成長は、普遍的な現象とはいえず、いわば歴史的(長い歴史のうねりのなかで一回性をもつ)な現象だったともいえる。

いずれにしても、特に現代日本は戦争をもう65年経験していない。おまけに経済成長(=都市化)も終わっている。そういう意味では映画の題材に著しく事欠く。

人生も「地獄をみた」からといって、「最悪の人生」とは言えないかもしれない、少なくとも、地獄は天国よりずっとドラマチックだろう、ということ。

それでもやっぱり言いたいのは、それでも「戦争なんか経験せずにすむほうが、はるかに幸運だろ」ということ。ネットとコンビニとツタヤであとは引きこもる私たちの週末は、同時に「終末」でもあるのだとしても、楽しいに決まっている。


空気人形/是枝裕和
 空気人形 [DVD]
ペ・ドゥナと板尾が素晴らしい。化け物と変態の映画ともいえるのだが、いくらでも奇麗になる。(化け物や変態を差別しているのでは断じてない。というか、化け物や変態である部分がまったくない人間など面白いわけがないし、少なくともそんな映画の登場人物に興味がもてるわけがない)


ゼロの焦点犬童一心
 ゼロの焦点(2枚組) [DVD] 
こっちは広末涼子らが主演しているほう。古い久我美子主演の映画も以前みたので、比較するのが面白かった。同程度の出来だとおもうが、古いものはそれだけで新しいものに勝ってしまうのは、なぜだろう? ただしかし、どちらも2時間ドラマ的な暇つぶし以上の感動はない。


アウトレイジ北野武 =これは映画館にて=
 アウトレイジ [DVD] 
椎名(水野)が殺されるところで、ふとタリバンを思い出した。最後、主人公(たけし)が特攻的な仕返しで死ぬのではないところが、「あれ? ソナチネと違う」と思った。

新宿ミラノ座は、巨大な劇場。爆音も巨大。たまには、ほんとにたまには、映画館に行こう。DVDほど安くて簡単な娯楽はないと最近つくづく思うが、映画館もコストパフォーマンスはよい。というか、どっちが時間の無駄感、人生の無駄感が少ないかの勝負だ。つまり、(1)ネットする(2)DVDみる(3)映画館に行く―どれがマシですか ということ。

ただし、そもそも人生そのものが無駄なのだとしたら、この問いは意味がないことになる。

人生は無駄か。どうだろう。そうでないなら、人生の意味とは何だ? 「生きることに意味なんかないよ」とよく言われる。私は違和感のほうが大きい。しかし、生きる意味に正解があるわけではないし、人生なんてそもそも壮大な無駄時間だという思いは消えない。ただそう割り切るのも空しい。

しかし、ふと気づいたことがある。我々が小説を読むのはなぜだろうと考えて、答えがなく、むしろ意味なんかないのではないか、無駄な行為なのではないか、という確信のほうが強くなる。

そして、思いがけないことに、小説を読むのが無駄でも無意味でもべつにいいじゃないか、と思えることで、人生のほうもまた、無駄でも無意味でもかまわないじゃないか、と初めて思い切れる気がしてくる。熱狂であっても、空虚であっても、酔狂であっても、堅実であっても、べつにいいじゃないか。

と、そんなふうにして、今、『猫と庄造と二人のおんな』(谷崎 潤一郎)を読んでいる。

おっと映画(DVD)の話だった。あと2つ。


情婦
 情婦 [DVD] 
ビリー・ワイルダー監督の古い映画。アガサ・クリスティ原作の法廷劇。最後のどんでん返しがミソ。狭心症で心臓に爆弾をかかえた弁護士の、モーレツ仕事人ぶりが見事。英国では今でもあんなかつらをつけるんだっけ?


板尾創路の脱獄王
 板尾創路の脱獄王[DVD] 
板尾監督ときいたからには、ぜひ見たいと思った。男がなぜ脱獄を繰り返すのかの秘密が最後にわかるわけだが、板尾監督が何を目指して(というか、要するに、何を落ちにして)映画を作ったのかの秘密が、やはり最後の最後に垣間見える。それはやっぱり独創的だった。


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ブログをしばらくほうっておいたら、ちょっと敷居が高くなった。ここ(twitter)で慣らす。というか。風呂のほうが本が読めるとか、食卓のほうが仕事する気になるとか、そういうのと似ている。高橋源一郎は「廊下はほんとに読書が進む」とどこかに書いていた。

なんでもそうだけど、どうせツイッターとかあるのだから、感想はすぐ書いたほうがいい。メールもすぐ返事したほうがいい。締め切りから逆算して中期スケジュールを立てたほうがよい…… いやべつにライフハックの話をしたいのではない!

ただ、すぐ何か書こうとすると、次々に思い浮かんで整理するのが大変。あまりに放っておくと思い出すのが大変。ちょうど中間のところで、ぱっと書き留めるのがいいのかもしれない。よけいなものは消えて、ちょうどよい感想が140字くらいで残る、というのが理想か。


↑ 映画DVD鑑賞記録 2010年(2)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100404/p1

↓ 映画DVD鑑賞記録 2010年(4)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20101123/p1