昔のカセットテープがまだ残っている。いいかげんどうにかしたい。そこでこの連休、どうしても必要なものだけを選び、デジタル化にいそしんだ。
カセットテープは触るのも久しぶりだった。ケースから出しデッキに入れ再生ボタンを押す。このカセットデッキもむやみに部屋を占領してきたが、いよいよ仕事納めになる。
20世紀の機器や媒体がどんどん消滅していく。長く使い慣れた道具だが、みな歴史的(一時的)な存在にすぎなかったのだ。
それでもこの作業のおかげで、テープの磁気に記録された音声データだけは世紀をまたいだ。さらにYouTubeにでもアップしておけば、かなり先の時代まで確実に同じメロディーを響かせるだろう。ディスクのほうは廃盤になったものもある。生物の身体は滅んで遺伝子だけが生き延びる、という話を思い出す。
そういえばDNAもぐるぐる巻きだ。それにデータはまずは一直線に読み取られる。カセットテープが昆虫かなにかなら、カセットデッキはバイオテクノロジーの機械か。
遺伝子と楽曲では、この世における位置はまったく異なるのだろうか。(まさにジーンとミームだが)
情報がくりかえしコピーされていく点はやはり同じだろう。そのとき、情報は物質ではないから、なんらかの物質である媒体に記録されなければならない。そのような操作を行える身体や機械も必要だ。その身体や機械のほうがすべて壊れてしまえば、情報はもう残りようがない。
恐竜は絶滅したが、恐竜が担っていた遺伝データは鳥類へと受け継がれた(変異はしたけれど)。カセットのデッキとテープは滅んでも、カセットに記録されていた楽曲データは、パソコンやiTunesによって受け継がれる。
DNAや恐竜は自然の領域であり、カセットやパソコンは人工の領域だ。しかし今から数億年も経ったあかつきには、「進化」の意味が大きく変わっている可能性がある。その進化論を勉強しているのが地球の外に住むロボットである可能性もあるけれど。
ただ、この話は、遺伝子は自身の変異が進化につながるが、楽曲はそうではないので、あまり乱暴にまとめるわけにもいかないか。
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カセットテープの中に、10代の私がギターで弾き語りしている歌がある。これは私自身でサバイバルさせないと、この世から本当に消えてしまう(それでもこの世はびくともしないのだが) せっかくなので一曲どうだろう。…しかし人の迷惑ということを考え、やめる。
20代〜30代にシンセサイザーで作った曲もある。シンセ自体は図体がひときわでかいため、引っ越しの危機で絶滅…してもよかったのだが、今も化石のように置いてある。
シンセサイザーはプログラムで音楽を作るから、現物の楽器はまったく使わなくてもよい。かつてカセットデッキに録音した時も、今回それをパソコンでデジタル化しディスクに記録した時も、どちらも電気信号のコードをつなぐだけだった。さらにインターネットで公開するとしてもやはりオンラインで完結。つまり、現実の音が空気を一度も振動させずとも、音楽はこのように移動できるのだ。吟遊詩人や琵琶法師の時代が懐かしい。
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ところで、宇宙船ヴォイジャーは、地球で作られたさまざまな音楽を載せて飛んでいる。他の知的生命体との遭遇に賭けているのだ。ただその音楽はレコード盤に刻まれている。はたして宇宙人がプレーヤーを持ってるかどうか気になるところだが、それ以前に地球にもそろそろなくなるね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89
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それにしても、人間はどうして音楽を作ったり奏でたりするのだろう。
……と考え出して深みにはまってしまったので、また次回。