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【2019 輪廻転生】

言語のゆくえ2010 (2)


イルカについては以前少し調べたことがあったので、思い出せる範囲で書いてみる。

イルカは光が届きにくい海中で生活している。そのため聴覚が非常に発達している。周囲の地形を把握するのに超音波を発して反響させることなどはけっこう知られている。しかしそれだけではない。バンドウイルカなどの種では、個体ごとに異なった鳴き声をもち他の個体と鳴き交わすことで互いを識別しているらしい。こちらは「シグニチャーホイッスル」と呼ばれる。人間が名乗り合うようなものだろうか。

これらにとどまらず、イルカやクジラの知能が特別に高いとみる人は昔から多く、イルカと人間のコミュニケーションまで試みられてきた。

現在の日本にもそうした研究者がおり。実際に水族館のイルカを訓練している(東海大学 村山司教授)。これまでの成果として、イルカは、足ひれや水中眼鏡などの物品を見て、それぞれ違った鳴き声を発したり、「R」や「T」など別の札をつついたりすることができたと述べている。しかもここに込められているのは、「イルカに言葉を教えたい」「いつかはイルカと話したい」という熱い願いだ。

イルカに関する知識はこれくらいだが、あとはいろいろ個人的に考えが巡っていく。

人間はもちろん単語くらい寝ぼけていてもわかる。とはいえ、われわれが足ひれや水中眼鏡を「アシヒレ」「スイチュウメガネ」という記号に対応させるとき、ごく初歩の知能だけを用いているのではないと思う。

言語はきわめて複雑で巨大なシステムのようであり、足ひれをみて「アシヒレ」と呼ぶだけでも、その言語システム全体がいろいろ絡まって動いていると私には感じられる。「ハトヤマです」「オザワです」と電話で名乗り合うだけでも、頭や心は激しくややこしく揺れ動くにちがいない。

だから、単語の理解や使用くらいは他の動物でもなんとかなるだろう、と思い込むのはよくないだろう。

しかし同時に、もうひとつの思い込みにも注意したい。他の動物の知能は人間に比べて単純だろうという思いこみだ。

というわけで、そもそも、イルカが他のイルカの鳴き声を耳にしたとき、あるいは足ひれを見てある鳴き声を発したとき、彼の頭の中では一体どれほどのことが起こっているのか?

イルカはイルカなりに複雑で巨大な知能のシステムを脳に備えていることはまちがいない。そして、シグニチャーホイッスルや足ひれに対応した鳴き声を使うとき、やっぱりその知能システム全体が絡まりあって動くのではないか。

すると気になるのは以下のようなことだ。

(1) そのイルカの知能システム全体の設計や原理は、人間の言語システム全体の設計や原理に、どこまで翻訳可能なのか。

(2) 仮に、言語を中心にした人間の知能システムが特別に高度であるとしよう。その場合、イルカなど他の動物の知能システムがもし同じ程度に高度であるなら、それは必ず言語に似たものになるのか? つまり、言語に翻訳できる設計や原理を必ずもつことになるのか?