東京永久観光

【2019 輪廻転生】

がんの週末



NHKスペシャル立花隆 思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む」。知り合いが面白かったといっていたが、きのう再放送をみることができた。


《がんの原因とされている「がん遺伝子」は、同時に、生命の誕生から成長に至るまでに不可欠な遺伝子でもあることがわかってきた。さらに、がん細胞は生命40億年の進化の果てに得た様々な細胞の仕組みを利用して、増殖し転移することも明らかになりつつある》(http://www.nhk.or.jp/special/onair/091123.html


これをいくつかのがん研究から実に鮮やかに見せつける。内容をこちらのブログがまとめている。
http://d.hatena.ne.jp/idealtypes/20091203/p1


「思索ドキュメント」とある。立花隆がそれぞれの研究者にまず投げかけるたどたどしい英文の質問自体に、すでに深い思索はあると思った。研究者はそれにただYESと答える。


立花隆は最後に次のように独白した――。「はっきりしていることが二つある。一つは私が生きているうちに、がんが克服されることはないだろうということ。もうひとつ。多くの人ががんで死ぬことになる。しかし大丈夫だ。なぜなら、人は死ぬ力を持っている。つまり、死ぬまでちゃんと生きられる。がんを克服するとはそういうことだ」(私のテキトウな記憶による)


あとのほうはややへんな言い回しだが、要は、「人は必ず死ぬのだ」ということを我々はがんになって初めて本当に実感できるという皮肉な事実を述べているのだろう。それはよく言われるしすでに知っているよとも言いたくなるかもしれないが、しかしそのことを我々はふだんはやっぱり忘れている。月曜からちゃんと仕事しておかないと週末には死ぬことになる。それは重々わかっているのに、やっぱり死の直前にならないと仕事に身が入らないようなもの。しかも、土日がどれほど楽しい天国の時間であったのか、言い換えれば「私は生きてきたんだ」という事実すら、週末(終末)にならないと決して実感できないということ。


しかしながら、がんが思索に値するのは、上記のようにいやでも思索を呼び込む深刻さをもっているからであるのと同時に、その深刻な死をめぐる思索を呼び込むだけの余裕もまた、がんはもっているからだ。つまり、交通事故や心臓発作と違って瞬時にあるいはその日のうちに死んでしまったりはしないのががんだ。がんになれば多くの場合 確実に死ぬ。しかしいくらか徐々に死ねる。それががんということになろう。5年の旅行はできないかもしれないが、3か月くらいの旅行ならできるかもしれない。私はまだがんではないので、生の歓喜と死の恐怖の究極セットをまだよく知らないのだが、3か月くらいの旅行が一瞬のごとく短いようで永遠のごとく長くもあることなら、少し知っている。


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以前も似たようなことを考えた。http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20070929#p1


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番組中、ある人のがん細胞がその人が死んだあとも培養されて生きている、という映像があって、ぎょっとした。いつの日か、がんは、人に寄生するだけでなく、人の機能を自らの枠内にすべて奪い取り、晴れて1個の生物種として独立する……なんてことはありえないのだろうか? 人間の作ったロボットが人間を滅ぼして地球を支配するというSFを、がんが事実として書き換えてしまうのだ! 生物進化でそういう例はまったくなかったのだろうか?