東京永久観光

【2019 輪廻転生】

この世における最大の謎



日本の政治は無数の複雑な力によって制御されているようにみえる。ところが実際は民主党社民党国民新党という3つの力が組み合わさっているにすぎない。いやその3つさえ、よく調べてみるとすべて小沢一郎というただ1つの力から発しているんじゃないの? …となるとこれは「超ひも小沢理論」だ。

それはさておき、我々の宇宙に作用する物理的な力は今のところ4つに分けられている。重力、電磁気力、強い核力、弱い核力だ。強い核力とはクォーク同士を離れさせない力で、中性子と陽子の結びつきにも寄与する。弱い核力は弱い力とも呼ばれ、それは国民新党のことではなく(いや国民新党はむしろ強い閣力と言うべきだ)、たとえば中性子からニュートリノがときどき放出されるのもこの弱い力が効いているせいらしい。小柴さんのノーベル賞にもこの弱い力はゆるやかに作用したと指摘されている。

この4つの力は宇宙のどこであっても値が変わらない。つまり、素粒子は地球上でも銀河の果てでもまったく同じ強弱で結びつくし、どの星に住んでいても星の重さが同じならリンゴも人も同じ速さで落ちる。

ではその力が少し違っていたら? 重力がもっと小さければ松井のホームランはもっと遠くまで飛びます。たしかにそうだ。しかしそれ以前に、4つの力がこうでなかったら宇宙もこうではなかった。ビッグバンのあとに連続した物理現象や化学変化は、4つの力をはじめとする値がきわめて狭い範囲に調整されていたおかげだ。そうでなければ、星々は生成されていない。原子すら出来なかったかもしれない。したがって地球も生物もなく松井のホームランもなかった。

そうすると不思議なのは「宇宙は何故こうだったのか」だ。ビッグバン後すぐに消滅してもよかったのに。単純なガスだけが漠然と漂っている宇宙でもよかったのに。こんなことをたまに思いめぐらす人間なんてものが存在しなくてもよかったのに。何故だ! 私たちの宇宙がこれほどうまい具合に調整されているのは奇跡ではないのか?

…というわけで、ポール・デイヴィス著『幸運な宇宙』(asin:4822283518)をじっくり読んでいる。続きはのちほど。



 ***



どうしてこの宇宙は星々を作り生物を生むほど絶妙に調整されてきたのだろう。偶然なのか。奇跡なのか。謎をマジに解こうとする理論がいくつか提案されてきた。あるいは謎をやりすごすための要領が。

それをポール・デイヴィスは以下の7つに分類している。

 A ばかげた宇宙
 B 唯一の宇宙
 C 多宇宙
 D インテリジェントデザイン
 E 生命原理 
 F 自己説明する宇宙
 G 偽宇宙

いずれも興味深く、発想の総点検にもなるので、私なりに整理して記しておく。《 》以外は本の引用ではない。


■A ばかげた宇宙 =偶然=

「なんで宇宙がこうなってるかって? そんなの分からないよ。たしかにこんなにうまくいくなんて馬鹿げてるけど、実際こうでしかないんだから、べつにいいじゃない」と反応する。一言でいえば「偶然」だ。ポール・デイヴィスは《大部分の科学者がこの見解を取っている》とみている。ただこれは何も説明しないのに等しい。そしてこの考えでは《人類は、広大で意味のない宇宙に施された意味のない装飾》にすぎなくなる。


■B 唯一の宇宙 =必然=

宇宙には根本の物理法則があり、それに従っているがゆえに宇宙にはこの姿しかありえないと確信する。その場合、4つの力も根本法則すなわち未知の1つの力から完璧に決定されるため、値が勝手に調整されることはない。統一理論や万物理論と呼ばれ、具体的には超ひも理論などが試みられている。宇宙がこうなったのは「必然」ということになるだろう。


■C 多宇宙 =幸運=

私たちがいるこの宇宙以外に無数の宇宙が存在していると仮定する。その中には、この宇宙と少し異なった宇宙も、似ても似つかぬ宇宙もあるだろう。後者のほうがよほど多いとしても、ごくごく希には絶妙に調整された宇宙があるはずだ。そこでは星々や生物も出現するだろう。私たちの宇宙がそれだったのだ――。このことはよく宝くじにたとえられる。1億円が当たる確率はありえないほど低いが、どこかに必ず当たる人がいる。その人は「え? なんでオレなの。偶然? 奇跡?」と首をひねってもしかたない。偶然といえば偶然だが、それより「幸運」というべきだろう。なお、宇宙が無数にあるという考えは、量子力学や宇宙のインフレーション理論からも導き出され、ただの空想とは言えなくなっている。


■D インテリジェントデザイン =奇跡=

宇宙も人間もすべて神が作ったという考え方。「奇跡」とは本来この意味だろう。


 *


さて、ポール・デイヴィス自身は、Eの「生命原理」とFの「自己説明する宇宙」の考え方に近いと述べている。どちらも「人間原理」を進展させたものだ。人間原理もまた「宇宙はなぜこうなのか」の根拠として知られている。

この本のカナメはここにある。かなり大胆でかなり無理のある考えだった。しかし、宇宙の存在を本当に納得するにはこの道筋しかないのではないかということも、私には強く感じられた。

…というわけで、ここからが本題。また明日。