東京永久観光

【2019 輪廻転生】

空には月が二つ浮かんでいた――そんな瞬間がいつか私の人生にも


内田百間阿房列車シリーズで実在の人物をしばしば「甘木=某」君と呼んでいる。昨日の「甘木市」はそれに倣ったわけだが、そんな名前の市が本当にあったとは知らなかった。ちなみに岡山市は百間の生まれ故郷でもある。

翌朝(きのう)は岡山城にも出かけてみた。暇つぶしに城ほど最適の場所はない。じっくり眺めてよし、石垣の周りを歩いてよし。天守閣の中に入れば町の歴史が展示してあったりする。上まで登れば市街地も一望できる。観光に求められる条件をうまいぐあいに兼ね備えているのだ。

そのあと、河を渡って後楽園も見学。みごとな泉水と築山。こちらもじつに飽きない。竹林や茶畑もあり、なんと鶴までいるのだった。

言語の本質はさておき、人生の本質を問われたら「それは旅行です」と即座に答えようと改めて確信するひとときだった。

ところが。きょうは村上春樹1Q84』を読んでいて、ふと「革命」という答が浮かんできた。私たちの人生にとって最高の輝きとなる可能性を今なお失っていないのではないかと。あるいはそれと並んで「信仰」と答えようとする人もいるだろう。

そんなわけで、『1Q84』は本当に良い小説だ。たとえば『海辺のカフカ』なら万人に勧めようとは思わない。しかし今回の『1Q84』は、多様なのめりこみ方が可能で、自分たちが生きているこの社会とその歴史に一定の問いをもつ人なら誰でも面白く読めるのではないか。エルサレム賞の受賞スピーチに関心をもった人もいろいろ考えさせられるだろう。もちろん村上春樹フリークなら至福の時間になる。とりわけ『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が好きだった人、無条件で書店へ走りなさい。

……と言いたいところなのだが、なんと、『1Q84』は上巻が早くも売り切れではないか!(新宿ブックファーストに下巻を買いに行って確認) この不景気にマスク以外に足りなくなる物品が出るとは。

ところで、「人生とは何か」と問われて「仕事に決まってる」と胸を張る人は今も昔もきっと多いのだろう。その答もたしかにいい線いっているとは思う。ただ、「仕事」の意味するところが、昨今の日本では急激に偏狭でつまらないものになってしまったということはないだろうか。「恋愛だわ」と答える人も『1Q84』には共感の余地がありそうだ。

阿房列車内田百間 asin:4480037616ちくま文庫
1Q84村上春樹 asin:4103534222