『渋滞学』が以前話題になった研究者。こんどは『無駄学』を著した。冒頭 工学系と理学系が乖離しているという話が提起され、それに絡んで「無駄こそ役に立つ」という主旨になるのかとも思わせたが、まったくそうではなかった。「無駄とは予測されるベネフィットから実際のベネフィットを引いた分である」といった定式化(まあそれは当たり前ともおもえるが)をしたうえで、いわば科学的に正しいライフハック講義が続く。
トヨタの生産方式すなわち「カイゼン」がリアルに説かれている。とにかく速くとにかく安く作ってたくさん売る。「トヨタ、正直偉い」とおもう。こんなのと競争すればアメリカのビッグ3だって負けるに決まっている。このカイゼンを指揮した山田日登志さんという人物が出てくる。山田さんはどこの工場現場を視察しても、たちまちムダを見つけ出す。新たな手順を指図すると、あれよあれよと時間短縮が実現する。そのくだりはまるで漫画のように鮮やかだ。なにしろあいさつで壇上に行くにもムダとりを忘れず小走りするのだから。
(ところが、そのトヨタもいきなりこんなに傾くとは…。経済とはなんと無情なことか。知るべきは無駄学より経済学なんだろうか? ともあれトヨタを偉いと認めるにやぶさかではないので、その賢明さをもって末端労働者と共存するカイゼンにも取り組まれんことを)
=追記= この無駄学は、時間という条件を意識しているところもポイント。つまり、締め切りまでにベネフィットが発生しなければコストは全部無駄になると。人生計画も同じ。「いったい何年生きると思ってるのですか」と問いかける。『面倒くさがりやのあなたがうまくいく55の法則』もこの時間条件は最大に重視している。http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20090228#p1
◎無駄学/西成活裕 asin:4106036231