10年ぶりの引っ越しとは、自分の持ち物の総点検でもある。
手持ちの音楽CDは、ある時がんばってすべてパソコンにデジタル移植したので、ディスクは実質無用に近いが、捨てる気にはならないものであり、そのまま荷造りした。
それより、もういいかげんにと思うのはカセットテープで、かつて山のようにあったのを徐々に捨ててきて、それでも今回なお20本ほど残り、またもや私と一緒に引っ越し。いずれも、個人的に手放しがたい楽曲であるだけでなく、今となっては音源が手に入りにくそうなのだ。そんなわけで、むしろこの機にCDを入手しようと思い立ち、とりあえず以下2枚をネット経由でゲット。やはりどちらも廃盤らしく、中古やオークションを当たった。
◎今週の音楽 (1)
テイク・ア・ホリー・デイ 〜サマー〜(東京ホット倶楽部バンド with ハーブ太田)1991年
http://www.alles.or.jp/~yoyo123/CD/CD_list/list_THCB/list_THCB.html
とにかく軽やかで涼しげで優しいアコースティック演奏が満載。ヴァイオリン、ギター、ウクレレ、ビブラフォン。この季節が来るたび必ず聴きたくなったもの。帯のフレーズがふるっていて、「お休みをとって虹を見に出かけよう」。いやまったくそんな気分にすぐさま駆り立てられる1枚。そんな毎年の夏を過ごしてもきた。
東京ホット倶楽部バンド(オフィシャルサイトより)http://www.alles.or.jp/~yoyo123/THCB/band.htm
◎今週の音楽 (2)
Bill(Killing Time)1990年
http://www.amazon.co.jp/Bill-Killing-Time/dp/B0007N34ZS
板倉文、清水一登の2人が中心のやはりアコースティックのユニット。こちらは一言では言い表しにくい感触の演奏なのだが、アメーバのごとく定まりのないメロディに、リズムやテンポもつっかかるように転がっていき、そのあたりがきわめておもしろい。
キリング・タイム(仮公式サイトとか)http://killing-time.spaces.live.com/
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どちらも1990年代初頭。そのころ私はテレビの仕事に関わりだし、この2枚とも番組のBGMによく使った。というか、その某ローカルテレビ局の音楽庫にあったCDを「向学のため」次々に自らのカセットにも録音したのだった! そういうこともあり、当時はBGMとしての音楽をあれこれ聴いたように思う。そんななかでずっと忘れがたく捨てがたかったのがこの2枚ということになろう。
東京ホット倶楽部バンドもKilling Timeも、もちろん文句などつけようのない独自の味や安定した技を備えていると思うが、大衆的に名が知られているわけではなく、そもそもインストゥルメンタルのヒット曲というのはないということもあり、結局きわめて個人的な出来事や思い出にしかなっていないのは、とても寂しい。しかし、これらを欠いては私にとっての1990年代は正しく記述できないにちがいない。そしてこれらをこうして聴き続けまた聴き直すことを欠いてもそれは不可能なのだろう。
それにしても音楽とは、今だってこうやって推薦しているつもりでも、ご承知のとおり言語に変換して伝えるのは難しく、むなしい。これらには歌詞もほとんどないため、それによるイメージ共有もありえない。当たり前だが、音楽は聴かなければまるでどうにもならない(聴きさえすればそれで十分なのが音楽であるのに!)。ちなみにKilling Timeとは暇つぶしのことであり、この1枚を聴きながらそこに込められた意味を言語として探ろうとしても、そんなものは無いのだからまったく無駄なのです、というようなことをふと思い起こす。
もうひとつ。誰しも10代のころに聴いたものは個人の音楽センスを決定づけるようだが、もう少し先の時期に改めて音楽の豊かさに触れるようなサイクルも人生にはあるのではないかと思う。私はこの頃がそうだったのかもしれない。そしてまた、人生における音楽の聴き方は右肩上がりでどんどんリッチになっていくのかというと、そうでもないらしいという悲しい事実にも気づく。現代日本大衆音楽史をかえりみれば、そもそも生産される音楽自体や、その消費や鑑賞の心構えが、けっして右肩上がりでリッチになってきたわけではない、ということも言えるのだろうか? 少なくともオーディオの音質などは、10年前、20年前に比べて劣化している人のほうが多いようにおもう。