東京永久観光

【2019 輪廻転生】

キム・ギドク『悪い男』(韓国映画)


冒頭から「なるほどこれは北野武だ」と思ってしまった。

暴力アクションの速さと激しさ、それと裏腹の見た目の慎ましさのせいか。色のせいか。久石譲っぽく叙情的すぎる音楽のせいもあろうか。手下のやくざ2人や敵のヤクザや警官の俳優たちが、どことなく不器用でゴツゴツした演技というか素人くさいというか、そういうところも北野武っぽいか。

冒頭なんだこれはと思っているうちに、あれよあれよと嵌められて娼婦に身を落としてしまう。そこまではいいが、以後はちょいとクリシェっぽく飽きる部分もあった。それと、いくらなんでもと現実感がない気もした。

主人公の男(松本人志みたいだが)は私にはそれほど魅力的でなかった。そういう点では役者としてのビートたけしって凄いよなあやっぱり。そう再認識する。

港や海岸の映像は、しかし、最高にいい! あそこに行ってみたい。あそこに座ってみたい。

ラスト、軽トラックの荷台での売春シーンは、テオ・アンゲロプロス霧の中の風景』を思わせた。ガラス越しの見つめ合いは、もちろん『パリ、テキサス』。

この映画で注目されている、男が発するただ一言の台詞は、甲高い声に聞こえてむしろ意表をついた。ヤクザとして負傷し声帯に障害があるという設定だったのだ。(そういえばノドに傷跡があった。見過ごしていた)

それにしても、主人公の男は女をまったく愛していなかったという設定なのだろうか。そうではないだろう。そのたった一言「ヤクザが愛なんて言うな!」というのとは正反対で。

なお、前半で写真に映っていた赤いワンピースの女(元の情婦?)は実在していたと思われるのだが、終盤でその写真の切れ端が砂の中から出てくると、それがヒロインの顔に変わっている。ということはあれは現実ではないということになるのか。

それから冒頭シーン。あれはやっぱりロッテ百貨店の前か(元旦には休みで前の道路は凍えるほど寒いロッテ百貨店)


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キム・ギドク『悪い男』 asin:B0002CHQ0I
テオ・アンゲロプロス霧の中の風景asin:B0002HNQAC
ヴィム・ヴェンダースパリ、テキサスasin:B000057HM2
◎参考(とメモにあったので) http://homepage3.nifty.com/pyonpyon/KimKiDuk.htm


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ところで、このDVDを見たのはひと月も前で、一応上のようなメモを書き留めたのだが、全然言い足りない気がしてそのままにしてあった。今回だいぶ時間が経ってそのメモを開いてみると、おもしろいことに、メモしたこと以外は忘れるかそれほどこだわらなくなってしまった自分がいる。そうするともうメモを事務処理のごとく繋げることができ、サクっと感想文が出来あがった次第。もちろん、まだ言葉になっていないところにこそ感想の深みというものはあるのかもしれない。ただまあ、そんなのは観測される前の電子の広がりのようなものであり、人間には操れないし触れられもしないのだ。そう思って諦めようではないか、諸君。