東京永久観光

【2019 輪廻転生】

ポアンカレー(昼飯ではない)


ポアンカレ予想とそれを証明したロシアの数学者を扱ったドキュメンタリーを、NHKが放送したそうだ。

この偉業は昨年(2006年)公式に認められ、サイエンス誌が科学ニュースNo1に選んでいる。しかしポアンカレ予想っていったい何だよ。私はそのとき初めて気になった。現代数学の難問というのがいったいどれくらい理解不能なものなのか。そういうヘンな興味があるのだ。

ネット上の情報を当たってみると、たとえば以下のような説明が出てきた。

「境界のないコンパクト3次元多様体Vを考えよう。Vが3次元球面でないにもかかわらず、Vの基本群が自明となることがありえるか?」 この問いにポアンカレは「ない」と予測した。すなわち「単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である」。これを一般化してこうも述べた。「ホモロジーがn次元球面と同型な任意のコンパクト組み合わせ多様体はn次元球面と同相である」

あまりの見事さ(分からなさ)に笑うほかなかった。門前の小僧もこれはさすがに読めない。フェルマーの最終定理などは、証明はたしかに超難解だが、定理そのものはいたってシンプルだ。でもこのポアンカレ予想(晴れて定理となった)は、定理自体がまったく理解できない。新聞の報道を読んでも説明するつもりは最初からないようだった。しかし、世間からここまで疎外されていいものだろうか。

そこでもうちょっと粘っていくつかサイトを参照した結果、まあだいたい以下のようなことかなと思うようになった。(信用しないように)。

ドーナツと大福餅では形が異なっている。どう異なっているかというと、ドーナツに輪ゴムが架かっていると、その輪ゴムはどうやっても外せない。しかし大福餅に架かっている輪ゴムはかならず外せる。では、輪ゴムが外せる物体の形として、大福餅を変形させて出来る以外のものがこの世に存在するかというと、じつは存在しない。輪ゴムが外せる物体は、菱餅にせよジャガイモにせよサツマイモにせよ、すべて大福餅(球体)と同等の形なのだ。ただしこれは我々が把握できる3次元物体の話。ポアンカレ定理とは、次元がさらに高くなっても(要するに4次元以上の物体でも)、輪ゴムが外せるのは大福餅の形しかありませんよ、という定理らしい。ちなみに4次元物体の表面のことを数学では「3次元曲面」と呼ぶそうで、余計ややこしいのであった

参考:http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ken/key/04_4.html

 *

ところで、4次元物体とは数学上の話であり、現実の物体として思い描くことは我々にはできない。

4次元の物体ではなくて4次元の評価というようなことなら我々も平気でやっている。たとえば、アイスクリームの味を決めるのに「甘さ・柔らかさ・冷たさ・白さ」という4つの評価軸があり、このアイスクリームは「甘さ4、柔らかさ3、冷たさ5、白さ2」です、みたいなこと。

では4次元の空間とか図形とかはどうか。いろいろ説明がなされるけれど、正確な視覚像としてはやっぱりイメージできないのだと思う。だからポアンカレ定理の「3次元の球面」すなわち「4次元空間における大福餅の表面」というのは我々にはイメージできない。頑張ってもムダ。イメージできないのに計算や証明はできるのが数学なのだろう。

そうした場合、やっぱり比喩ってのは欠かせない手だてになるのだとおもう。イメージできないものをイメージするには、なにかよく分かるものに喩えて考えたり感じたりするしかないではないか。

4次元ドーナツってどんな形? ロシア名物ポアンカレー(キノコ入り)ってどんな味? Imagine no possesions, I wonder if you can.

 *

追記(10.22):NHKの番組によれば、ポアンカレ予想は、宇宙が丸いかどうかを証明する思考実験として考え出されたらしい。ただし、地球が3次元として丸いのに対し、「宇宙が丸い」というのは4次元的に丸い(4次元の大福餅型である=4次元のドーナツ型ではない)ということだろう。それともうひとつ、上に「輪ゴムを外せるかどうか」と書いたが、正確には「輪ゴムをドーナツや大福餅の表面上で1点に縮められるかどうか」であることも分かった。