東京永久観光

【2019 輪廻転生】

一文字目からかすれる100円ラバーグリップボールペン


じつに素晴らしい無数の屑のような品々がことごとく100円で買える日本だが、その100円で買える唯一のお値打ち品というなら、古本ではあるまいか。古本屋は古いものがただ残って出来たわけではない。しぶとく生き残る本ばかりが集まってくれているとみるべきだ。ふつうの本屋というのは、ただ新しいだけの本が右から左へ流れをとめずにはいない(動的平衡!)。したがって、新しくなく流行ってもいないのに読み継がれているという本が、全体のなかに紛れている割合は、どう考えたって古本屋のほうが大きい。とはいうものの、古本屋もたんに古いだけの本が右から左へと流れている類いの店もあり、ところがそういう店にかぎって、表の100円ワゴンのほうにむしろ値打ち本が捨て置かれているという法則がある。わずか1週間ほどで同じワゴンから『考える人』2007年春号、町田康へらへらぼっちゃん』、吉田秋生『河よりも長くゆるやかに』と連続したのだから間違いない。

 *

忙しくなると、やっぱり頭も振り絞るように使わされるものであり、追われ追われてフルスロットルで峠をひとつ越していく。ところがその金曜仕事のあとの飲み屋では、店のテーブルをゴキブリが走ったという大事件をきっかけに、子供のころ好きだった虫が大人になるとなぜ嫌いになるのかという疑問が持ちあがり、一同 議論白熱。皆それぞれに一家言あり虫体験もあるのが可笑しい。こういう問題を考えるのは無性に面白くて、もう閉店です、終電ですという頃合いまで、ほてった頭のアクセルをさらにエンジンが焼き切れるかというところまで踏みこむことになった。蛇はなぜ怖いのかとか。理科のカエルの解剖で女子だけが必ずきゃ〜きゃ〜言うのは何故かとか。少年は虫が初めて嫌いになったとき初めて異性を好きになるのだ、というのが正しいかどうかはべつにして、そのテーマで映画が一本できますね、という意見も。むかし安部公房が蛇は擬人化できないから…とか書いていた。

 *

動的平衡といえば『生物と無生物のあいだ』。NHK「ニッポンの教養」で爆笑問題がその著者福岡伸一先生を訪ねていた。太田が科学と宗教なんていう根源的な問いを投げかけるので、そんなこと言われてどうするんだろうと思っていたら、そうかなるほどな〜と感じ入る、しかも鮮やかな応答をしていた。

 *

へらへらぼっちゃん』はエッセイ集。《遊んで暮らしたいなあ》で始まる。売れなくて「自分はもう歌手はやめだ、ってんで、三年間、なにもしないでテレビの時代劇ばかりみていた」とあるのが、やけにリアル。

 *

というわけでまたまた峠がそこに。