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【2019 輪廻転生】

舞いミク(私たちはどうつながっているのか)

私たちはどうつながっているのか―ネットワークの科学を応用する
 増田直紀 著/中公新書asin:412101894X


たとえば《マイミクのネットワークはスモールワールドであり、スケールフリーであることが知られている》…なんて言われて、「え? 何それ、知らない。でも知りたい」と思う人や、あるいはこんなふうに話を振ってそのマイミクから注目を集めたい人は、この本を読むと吉。

今や会員が1000万人を突破したというミクシィ。ではその膨大なミクシィ会員からてきとうに1人を選び、その人を目指して、あなた → あなたのマイミク →マイミクのマイミク → マイミクのマイミクのマイミク → ……と進んでいったなら、平均して何人目でその人のページまでたどり着くだろう。100人目? 1000人目? 10000人目? いやじつは最短ルートを進めばざっと6人目くらいでどんな会員にも行き着いてしまうらしい。世間は狭い。ミクシィも狭い。そのようなネットワークを称して「スモールワールド」と専門用語で呼ぶのだ。

スモールワールドには「クラスタ」という条件が加わることもある。それは、あなたのマイミクであるaさんとbさんがやっぱりマイミク関係であることがしばしば、という条件。ミクシィはそれにも当てはまるだろう。だれしも内輪の仲良し組を作っている。でもここで問題なのは、内輪どうしの結びつきが強いはずなのに、なぜ見知らぬ会員にもこんなにすぐたどりつくのか。答は読んでのお楽しみ。

もう一つ気になることがある。マイミクって何人くらいが普通なんだろう。10人? 20人? 30人? ところが、その普通の人数というのを定めがたいのが「スケールフリー」という性質なのだ。すなわち、すごく多数のマイミクをもつ会員がごく少数いる。さらにすごくすごく多数のマイミクをもつ会員がごくごく少数いる。さらにすごくすごくすごく…、とスケールにキリがない。そういうリンクが千手観音みたいになっている会員を「ハブ」と呼んだりする。ハブに比べたら、たいていの会員はマイミクをそんなにたくさんはもっていない。まあドングリの背比べだろう。そんなわけで、マイミクの平均人数は計算しても有効な数値にならない。このほか、各コミュニティーのメンバーの多寡もきっとスケールフリーなのだろう。つまり、信じられないほど大勢のメンバーがいるコミュニティーがごくわずかある。逆にどんなにヘンテコなコミュニティーでもわずかながらメンバーはいる。「ロングテール」とはそのことでもある。

なお、こうしたスケールフリーという性質は、常に新しいメンバーが入ってリンクがどんどん成長していくネットワークに現れやすいという。ミクシィはまさにそれだ。しかし言い換えれば、ネットワークとは放っておけばつながりの格差がありありと出てしまうものでもある。なぜそうなってしまうのか。それも読んでのお楽しみ。

そしてもちろん、現実の知人関係こそがスモールワールドでありスケールフリーのネットワークだ。この本は、べつにミクシィの分析ではなく、こうしたネットワーク理論の基本中の基本をまず解説する。次いで、スモールワールドやスケールフリーという性質を実社会の人脈・組織づくりにいかに応用できるかを検討する。この応用編では、私たちが無自覚にうまくやったりやれなかったりする実際がこれらの理論で一般化できること自体がそもそも面白いなあと思った。

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複雑ネットワーク科学は90年代以降に進展した新しい分野だという。一般向けの本も複数出ている。

新ネットワーク思考asin:4140807431) スケールフリーのネットワークモデルを打ち出した研究者アルバート・ラズロ・バラバシが書いている。この分野の面白ネタはすでにかなり出そろっている。「ベキ乗則」というものの存在を私はこの本で知ってすこぶる感動した。→ http://www.mayq.net/junky0304.html#30

スモールワールド・ネットワークasin:4484041162) ネットワークモデルにおいてはバラバシと並び称される研究者ダンカン・ワッツの書。感染や流行といった現象をめぐる理論にもページを割いている。→ http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20051123#p1

複雑な世界、単純な法則asin:4794213859) こちらの著者は研究者ではないが、科学書としても読み物としても、バラバシの本に負けず秀逸。→ http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20050507#p1

複雑ネットワークの科学asin:4782851510) 今回と同じ増田直紀さんらが書いている。ネットワーク理論の基礎となるグラフ理論についてじっくり勉強できる。病気や噂が浸透していくパーコレーションという概念についても知ることができた。

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さて実をいうと、私は一昨年このテーマでテレビの仕事をし、その際この若き研究者増田直紀さんにガイド役をお願いしてインタビューさせていただいたのだ。そんなことがあって、この『私たちはどうつながっているのか』もお贈りいただいた。だいぶ日数がたってしまったが、ここに改めて紹介いたした次第。

それにしても、複雑ネットワークはやっぱり面白い。

今回の本では特に、友達って「遠く・薄く・多く」と「近く・濃く・少なく」のどっちがいいんだろう、なんてことを思った。またそれとはべつに、「内輪でみんなまとまる」のがいいのか「1人ずつそれぞれつながる」のがいいのか。自分の性格や信条と合わせつつしばし考えこんでしまう。これに絡んで、スモールワールドと山岸俊男安心社会から信頼社会へ』を関連させているのも興味深かった。

また、ネットワークの中心とは何かという際の、4つの見方が示されている。知人の数が最も多い人。他の人までの距離の合計が最も短い人。他の人どうしを最短で結ぶルートのうち最も多くのルート上に位置する人。他の人どうしを最短でなく気まぐれに結ぶルートのうち最も多くのルート上に位置する人。

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ついでながら、もうひとつ。ネイチャーのコラム記事を集めた『知の創造』という書籍がある(asin:4198610762)。かのワッツらがスモールワールドのネットワークモデルを初めて示した時の紹介記事が、実はこの中にあったのだ。たまたま私はそれを読んでおり、へ〜えと思った。その感想をあるミニコミ雑誌の原稿としてまとめたものがパソコンに眠っていたので、それもここで。
→ http://www.mayQ.net/imodzuru.html(1999.12)