東京永久観光

【2019 輪廻転生】

幸田文『みそっかす』


幸田文『みそっかす』。これまた脈絡なく開いてみた。彼女がまだ幼少にもかかわらず、家に来た人物とその関係やその場の情景をこと細かく描写している。母親が亡くなった7歳の日についても、どんどん進んで行く出来事と心の揺れを、よくも逐一覚えているなあと感心する。

自伝というのを、みんなも私ももっと書いたらいいのだ。日々のうつろいばかりブログにするのもいいが、そもそも自分はなぜこんな奴になったのか、それを自分はどう捉えているのか、じっくり分析した文章があれば、自分のものであれ他人のものであれ興味がある。『東京タワー』なんかもそういう点で面白かった。

でもそういうモチーフはブログ一般にはあまりない気がする。現在のネット利用は情報の伝達や収集よりも、刹那のコミュニケーションだとも言われる。コメントをもらったら返さないわけにはいかず、その場しのぎで適当にみつくろって返したコメントが、またもや返答をうながしてキリがなくなる、みたいな。

そこで、自伝のようなものを淡々と長々と書いて行くなら、そうしたコミュニケーション過多からは少し距離が置けるのではないか。それを人がどう見るかは別として、自分がそのとき本当は何をしたのか何を思ったのか、よく思い出し調べもしてはっきりさせることは、事実であるがゆえに興味深い。だいたい個人の心にしかしまってないことは、自分以外には誰も書けないのだし、いくらGoogleで検索したって絶対出てこくるわけがない。有意義なことこの上ない。