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【2019 輪廻転生】

昭和史のスタンダード?


「国連安保理北朝鮮制裁決議」「北朝鮮は完全拒否」というニュース。ふとそっくりな歴史に思い当たる。1933年、日本の満州支配を非難する決議を採択した国際連盟の総会で、かの松岡洋右は堂々と反論文を読み上げ、「さよなら」と叫んで退席したという。日本はそのまま国際連盟を脱退。

世界中から顰蹙を買っていながらよくまあそんな態度で。北朝鮮に対する呆れた気分によって、当時の日本をめぐる国際的な空気が分かるのかもしれない。一方、現在の控えめな外交とは正反対の日本があったことが、なんとも不思議ではある。

ちょうど、半藤一利昭和史 1926-1945』(ASIN:4582454305) を読んでいたので、余計そんなことを考えた。

この本、読み進んでいくうちにどんどんハマっていく。それと歩を合わせ、日本という国がまた、あれよあれよと戦争の深みにハマっていく。

日本の戦争について基本の歴史くらいは押さえておかないと。常々そう思うわけだが、この一冊はその用を十二分に果たしてくれる。特定の相手に実際にレクチャーした語りとのことで、分かりやすい。まさに教科書たりうるが、テレビでもおなじみの著者の人柄や口調がにじみ出ているようで、そこは教科書をしのぐ魅力だ。アマゾンなどでもほとんどの評者が絶賛している。

《それにしても何とアホな戦争をしたものか》。著者の思いはこの一言に貫ぬかれている。ただし「犬死だった」とはあえて言わない。あの戦争について日本のだれもが共感・納得できる記述を成立させるのは非常に難しくおもうが、この一冊がひとつそれを語り得ているとしたら、その肝はそうしたところにあるのだろう。

もうひとつ。この激動のなかで昭和天皇は最初から最後まで中心にいた。当然なのだろうが、それを知るとなかなか思いがけない気持ちになる。そのとき天皇は何を言ったのか、言わなかったのか。本当はどう思っていたのか。著者は史実を通して天皇の心にこそ接近し、実感できる水準まで読もうとしていると感じられる。この本の焦点はそこにあると言ってもいいのではないか。その結果、おそらく著者と同じように読者が感じさせられること。それは昭和天皇という主人公への親しみだ。

こうした親しみは虚構なのだろうか。しかしそれを疑うなら、昭和天皇への憎しみというものもまた、虚構でないとは言えない。

いずれにしても、昭和天皇への親しみを捨てたくない人と、昭和天皇への憎しみを捨てたくない人とがいて、半藤さんはきっと親しみを捨てたくない人ではあるのだろう。そしてもし、昭和天皇への憎しみを捨てたくない人のほうが日本に多いのだとしたら、『昭和史』はスタンダードな支持を得ないだろう。

しかしふと思う。昭和天皇への憎しみであれ親しみであれ、「そんなもの最初からどちらも持ち合わせていませんよ」という世代が、今やどんどん多数派になってはきているのだろう。