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【2019 輪廻転生】

あちらの頭がおかしいわけでないなら、こちらの頭が足りないのだ


現代思想10月号「脳科学の未来」特集で、茂木健一郎・郡司ペギオ幸夫・池上高志の3者が「意識とクオリアの解法」と題してディスカッションしている。ギャラリー向けでなく、おそらく論者自身のまさに進行中の問いと、その時その場で絞り出された考えとを、そのまま口にしているようだった。だから理解できたらさぞかしエキサイティングにちがいない。が、どうにも難しく、なかなか着いていけない。asin:4791711548

特に郡司さんの話がやっぱり分からない。面白いことに、鼎談のイントロで竹内薫氏までが郡司さんのことでぼやいている。《‥彼の本を読んだ結果、私の知能では、彼の深遠な脳科学の学説が理解不能であることを思い知らされた》。そもそも《実際、世の中の多くの人は、なぜ「ペギオ」なのか、名前が出てきた時点で思考が停止してしまう可能性がある》とも言う。郡司理論の訳の分からなさは識者であってもそんなヘンテコな形容にしかなりようがない、ということだろう。ちょっぴり安堵。

この後日談を茂木さんがブログに書いている。
http://kenmogi.cocolog-nifty.com/qualia/2006/10/post_4e49.html
じつは郡司さん、鼎談の原稿に大いに加筆したというのだ。それで余計分からなくなってたりして、などと考えると可笑しい。

しかし重要なこと。郡司さんは、何かを懸命に考え抜いた末に、きっと何かがクリアに分かったのだ。そしてそれを懸命に言葉にしようとしている。それは間違いない。郡司さんにははっきり見えていてしかも我々にも必死で見せてやろうとしていることが、私にはこれほどまで見えないとは、一体どうしたことか。

そんなわけで、鼎談を読みあぐねつつも、郡司さんの言わんとするところを、むしろ今度こそどうしても知りたいという気持ちのほうが強くなった。

ちょうど『生きていることの科学 生命・意識のマテリアル』という新書が出ているので、手にした。既刊の『生成する生命』は何度トライしても分からず、堅い岩壁のごとしだったから、これもさして期待はしていなかったが、「はじめに」を読んだところ、なんと奇跡的にうっすら分かる気がしてきたではないか!
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ただそこでちょいと仕事が忙しくなり、先を読むのはまたいずれということになった。でも今回は、巨大な岩壁にクサビ一個は打ち込んだ気分だ。

そのうっすら分かったとかいう中身に、ここでまったく触れないのはどうかと思う(私の本の紹介ではじつはよくあるのだが)。おまけに『現代思想』の鼎談の中身にも触れていない。しかしまあ、私が書いた中身より本自体の中身を読むほうが明らかによい。

でも一言だけ書いておこう。昔 柄谷行人を読んでほとんど分からず、でも後からうっすら分かったきたときのことを思い出す。柄谷という人は、こんなヘンなことを考えているのか、そんなこと私は今まで一度だって考えてみたことなかったよ、という印象だった。しかし、郡司さんが考えていることというのは、(理解しがたさにおいては柄谷言論に匹敵するが)、じつは私もそれなりに手探りくらいしたことがある、何らかおなじみの疑問をめぐっているのではないか、と直感している。

そういえば少し前、『InterCommunication』にも郡司ペギオ幸夫×保坂和志の対談が載っていた。あれもざっとしか目を通していないが、互いの考えの深いところをズバリ照らし合っているといった充実感ありありで、とくに郡司さんがとてもうれしそうに語っていた。でも端からは何ゆえそうなるのかやはり分からないわけで、あの対談も置いてきぼりを食らった感じだった。
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