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【2019 輪廻転生】

『竜馬暗殺』


黒木和雄監督『竜馬暗殺』(1974年)

映画史に刻むべき大傑作だと言いたい。

見ているうちに自分の思考や神経が完全にこの映画の世界に包まれてしまい、たとえばここ数ヶ月くらいの出来事などきれいさっぱり洗い流されてしまったと感じるほどだ。

幕末と龍馬という親近感ある題材を用いつつ、人物や設定に特異な解釈と造形が施されることで、徹底して不様だがそれゆえ比類なく魅力的な龍馬像が浮かび上がる。天下の変転と自らの野望に翻弄されざるをえない幕末青年の、やぶれかぶれな熱情と空虚が、まさにこれだという感触を得てぐいぐい胸元まで迫ってくる。モノクロの荒れた映像がまたあまりにもスタイリッシュ。話を暗殺直前3日間に絞ったことで、焦燥や葛藤がじわじわ極まっていくような展開。

仕事が一段落し、「久しぶりに映画へ」と思い、いろいろ探したところ、池袋新文芸坐今村昌平黒木和雄の特集をしており、きのう(23日)は『龍馬暗殺』と『祭りの準備』の2本立てだったので、それを選んだ次第。『祭りの準備』(1975年・同監督)も絶品、面白すぎ。

2本ともこれほど強烈なインパクトなのに今ではあまり話題にならないようだ。ともにATG映画で70年代らしさが深く刻まれているとも思える。言い換えれば、80年代以降はこのような味の映画はたぶんなかなか見当たらない。そんなこんなで、個人的には2作とも最高度にお勧め。

竜馬暗殺 asin:B00005QYOZ
祭りの準備 asin:B0000V4OJW