東京永久観光

【2019 輪廻転生】

甘美な世界史体験ツアー(現コース/夢コース)


映画『グッバイ、レーニン!』をDVD鑑賞。1989年のベルリンがニュースの歴史にそして世界史に刻まれたことは知っている。しかし、その時その内側つまり壁の東側にいた人はいったいどんな感じだったのか。日々の暮らしはどう激変したのか。そこは意外にちゃんと想像したことがなかった。今回この映画で一番気づかされたのがそのことだった。まああんなエキサイティグな体験は一生に一度、いやふつうは一度もないと言うべきだろう。壁の外しかも今はなくなった壁の外からの気楽な感想ではあるが、自らの体験として味わってみたい、羨ましくてしかたないというのが率直な気持ち。そもそも東ドイツなどという国があったこと自体をけっこう忘れていて、その日だけでなくその日までの人々の生活を知る機会なんて、この映画を除くと本当に少なかったように思う。

その壁のなかの暮らしは、映画の公式サイトにある「東ドイツトリビア」でも確認できるので、ぜひ(http://www.gaga.ne.jp/lenin/)。暮らしの激変も面白いが、それまでの暮らし自体がまことに面白い。要するに社会主義生活って、少なくとも観光の対象としては極めてエキサイティングなのではないか。

さてさて、ところが。映画において東ドイツの模範市民として登場するある母親だけは、言ってみればまったく別の激変を目の当たりにする。ネタバレになってしまうが、なんとなんと、西の生活に疲れた人々がこぞって壁を超え憧れの東へと逃れてきたという激変だ。もちろんそんな歴史は誰の一生にも起ったためしはない。世界史のこれまでそしてこれからを眺めても、そんな項目が刻まれることはないのだろう。しかし、それは虚構や悪夢としてだけ片づけるには、あまりに美しい出来事に感じられるのだった。そんなまさに夢でしかない激変を、母親は生涯最良の思い出として抱えていく。この映画最大の魅力はむしろその瞬間にこそ花開くのかな、とも思う。ちなみに、レーニン銅像がヘリで運ばれていくシーンは、アンゲロプロスの映画を思い出した。

グッバイ、レーニン! ASIN:B0002VL6PU