東京永久観光

【2019 輪廻転生】

見きわめるべき困難が見えているか


波状言論S改』を読んだ。東浩紀が企画し、宮台真司北田暁大大澤真幸それぞれをゲストに招き、最近の関心事や発言の真意に、鈴木謙介とともに迫る。そんな3鼎談をまとめたもの。

ゲストの選択について、東は「社会学が大衆化し社会の道具として使われる現在、新しい総合教養人としての役割がもっとも期待される3人」(主旨)といった紹介をしている。実際このメンツなら多彩なテーマが総覧できそう、くらいの期待で読み始めた。

ところが意外にも、全体を通して1つの焦点が、私の印象としては浮かんできた。それは「ネオリベラリズムもしくはリバタリアニズムの台頭」ということになる。我々の社会および思考が今まさに収束しつつあるパターンを捉えようとすると、やはりネオリベラリズムという傾向は、いくつもの観点からして見逃せない背景あるいは対峙すべき課題なのだろう。改めて認識した。

とりわけ東は、ネオリベラリズムとして括るべき変動に敏感で、機会を逃さずその構図を抽出しようとする。ここでネオリベラリズムとだけ書くと、米政権等への紋切り型批判にも聞こえる。しかし東は、ネオリベラリズムをその事実上の効能(?)も含めて冷静に見据えていると思った。さらに、「環境管理型権力」さらには「動物化」というおなじみのキー概念やその具体的事象を、ネオリベラリズムの本質に絡めるかたちで、いっそう深刻に位置づけていく。

世間の随所で妙な息苦しさがじわじわ増してきている。この感触を「ネオリベ」とか「ネオコン」とか呼ぶらしい。…ということは共通認識になりつつある。しかし、その正体を身体に電気が走るくらいのはっきりした実感で説明している言論には、なかなか出会わない。この鼎談、いくらか散漫なところはあるけれど、主に大澤や北田から東が引きだしてくるやりとりの中に、その糸口が間違いなくあると思った。

波状言論S改社会学・メタゲーム・自由 ASIN:4791762401


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さてさて。ネオリベラリズムとか動物化と呼ぶべき変動が、社会にどう現れているのかを、この本のように分析することは大事だし、その鋭い考察に触れるのは快感ですらある。しかし実をいうと、ネオリベラリズム動物化が、社会全体や他人にではなく自分自身に今どう振りかかっているのか、それを直視することが、それはあまり快感ではないにもかかわらず、いっそう重要だ。なぜなら、それはたぶん本当に自分自身に振りかかっているからだ。80年代の思想がいくらか知的遊戯でよかったのに比べれば、00年代の思想はそうノンキなものではすまない。

というわけで、自分自身の直視を通じてこそこの時代の困難を見極めたい、そんなありそうでめったにない試みが、『フリーターにとって「自由」とは何か』(杉田俊介)という本だと思われる。半分ほど読んだ。いずれ感想を書きたい。

●フリーターにとって「自由」とは何か ASIN:4409240722