東京永久観光

【2019 輪廻転生】

暑かった


珍しく朝から電車に乗り、やや長めの移動をした。都心と反対方向だったので混まないのはありがたかったが、最後に乗り換えたJR線は、もはやローカル列車のおもむきで、1時間に2本くらいしか来ない。じわじわ蒸してくる短いホームで予想外に待たされた。やって来たのがまた、すっかり忘れていたあの緑色の車輌で、辺鄙な土地で死ぬまで働かされる不幸な晩年を思う。

車内では胴長族を見た。というか、よくいる高校生男子。ある駅で左と右の扉からそれぞれ同時に入り込んできた2人が、そろって物憂げでシャツとネクタイが最初から緩んでいたのはいいとして、はて今は何時限目になるのかもいいとして、その制服ズボンの腰の位置だけは「え、それってどういうこと?」と思わず近づいて声をかけてしまいかねないほど衝撃的に低かったのだ。いやそれでも不満らしく、両手がしきりにズボンの腰に行きもっと下へもっと下へと努力をやめない。胸と腹が区分できないと昆虫の仲間ではないのだが、彼らは胴と脚の境界が曖昧である。腰の線は一体どこだ。ちょっとシャツをたくしあげてくれないか。もしやそのまま用が足せるほど位置までズボンは下がっているのではあるまいか。いや、というよりそのズボンの形状は、腸の具合が窮迫しついには不測の事態に至ってパンツと尻の接触を可能なかぎり回避せねばならないような場合にのみ見受けられる極めて特殊なものだ。

目的地の駅前は、酒場のスナックがずらっと並んだような街で、帰りにそこを汗をふきふき一人歩いていると、前部をぶつけて壊した大型乗用車が前に現れた。運転手らしき女性が脇に立ち、携帯で誰かに連絡をつけている。その女性のシャツというのが、斜めに大きく赤・青・黄・黒と塗り分けた大胆デザインで、豹柄のスパッツとパーマの髪によく似合っていた。映画にはよく、なんかこう作為的だが無関係に挿入されて無闇に気を引いてしまうシーンがあるが、ちょうどそんな感じだった。とはいえ、今こうして私の周囲をリアルに包んでいるこの状況や空気や心境の全体は、明らかに映画のスクリーンの規模を超えているとも思った。こういう奇妙さは、むしろ小説などの表現を使ったほうが再現しやすいのではあるまいかと。それでも映画というのは、こんなにも鮮やかな現実感を時として突きつけてくるのも本当だ。風景や出来事はただそのまま映せばいいのではなく、映画が迫真性を醸すためにはずいぶん苦心があるんだろうなと、そんな当然のことを、しかも今ここで私が考えたからとてまったくどうにもならないことを、汗をふきふき考えた。

帰りは帰りで、隣に座った女子高校生2人がそろってアイスクリームを手にしていたのだが、かなり溶けているのをちっとも気にせず、案の定コーティングのチョコレート片が、制服の上に剥がれ落ちた。

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ついでに。こっちは先日のこと。ある面接を受けた。相手二人のうち主に一人と長く話したあと、黙っていたもう一人がようやく口を開いた。その最初の質問が、「あの、××さん、血液型は何ですか」。たしかにそれは伝えていなかった。それに続いて、自分の性格の長所と短所は何だと思うかと聞かれたので、血液型はその参考ということなんだろうか。そういうものなんだろうか。