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【2019 輪廻転生】

青汁


音楽に対する一個人の強い感受性を譲らぬままに雑誌出版を貫いてきた渋谷陽一という人物が、時を経て、今度は政治や経済にも向かいはじめた個人のやむにやまれぬ思いを新雑誌に込めて世に問うた、それが『SIGHT』。…と見てはどうだろう。

複雑な成り立ちをしている雑誌や会社というのは、時代の先へ先へとそう柔軟に変化できるものではない(時流を追いかけて転業しまくった『宝島』は例外として)。だが個人の一身なら、自らが普通に思考をやめないかぎり、ちゃんと先へ進むことが可能だ。かといって、その先へ行こうとする一個人の思考をズバリ反映できる雑誌なんて「この世にあるものか!」と言いたいが、探してみたら「一冊だけありました」、というところ。

その『SIGHT』04年冬号を読んだ(出たのは年末なので、日はたっている)。表紙に「政治・経済・エンターテインメント この一年を総括!」とある。音楽の人だった渋谷陽一が、その「音楽」と並べてもどうしても触れたいものとして「政治」や「経済」が浮上してきた。そんな信念を窺わせる。やっぱりこれも、今という時代の実相だろう。たぶん。

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で、おそらく満を持して選び抜いた3人に渋谷陽一自身がインタビューしている。政治学者の藤原帰一、元経企庁長官の田中秀征、リフレ派の経済学者小野善康イラク戦争や国会や景気の動向にまったく関心を持たないではいられない、幸か不幸かそんなふうに出来ている層にとっての、良質なスタンダードが語られていると感じた。(つまり良い意味の実学? 良い意味の「中級やや難」的知識?)

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藤原帰一は、なにも珍奇な理屈や陰謀を解くのではない。イラクには主体となる政府がなく、アメリカは統治不能で、国連と欧州も手を出したがらない。だからゲリラ戦は当分続くし、この枠組みを根本的に変えないかぎり、自衛隊がのこのこ出て行っても復興など決してできない。いわば常識的な構図を示すのだが、根拠のリアルさ、論述の明快さのせいでぐいぐい説得される。

そして問題は、そんな状況がわかっていて、なぜ日本は大義もなにもなくひたすらアメリカ追従なのか。藤原は、政治に携わる連中にはそれ以外の選択肢は最初からないのだと断言する。そして「素人は黙ってろ」が本音なのだとも。自民党だけでなく民主党もそうなのだと。藤原《…政治業界だと、こんな風になります。まず、北朝鮮の危機がある以上、対米協力以外に選択はないことはわかりきってる。アメリカが金と兵隊をよこせと言っている。で、その通りにしなかったらアメリカに何をされるかわからない。やるしかないじゃん、これが常識になってるわけですね。で、この常識を共有している民主党の議員が常識を掲げている自民党とやり合うわけだから議論になるわけないんですね》

このインタビューには、猜疑ばかりでも純真ばかりでも見誤ってしまう、政治認識のある水準点が示されていると思った。

もちろん渋谷陽一は、この現状に対して、《どうして誰もその青臭い原則を問わないのか》と強い異議を唱える。こうした青臭さへの拘りこそ『SIGHT』の拠り所なのかもしれない。

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それならば最も青臭いことを考えてみよう。今回のぐちゃぐちゃは、ブッシュ政権という独断にみちたバカ戦略集団が元凶と考えられている。国連の承認なしに戦争に踏み切り、イラクという一国を壊滅させてしまい、大量破壊兵器は見つからない。占領組織と武装勢力が絡んで殺し合いもやみそうにない。どうみてもツッコミどころ満載だ。これでは「戦争OK」が多数派にならなくて当然だ。逆にいえば「戦争NO」は今こそ言いやすい。99年NATOコソボ空爆に世界中が悩んだのとはだいぶ違う。

しかしこれがたとえば、フセイン等が大量破壊兵器を本当に製造し、地域の内外で使用しそうな状況、あるいはもう使用してしまった状況において、世界はどうするのか。日本はどうするのか。自衛隊はどうするのか。憲法9条はどうするのか。それでも「我々は戦争には行かない」と、いや「世界の誰一人として武力行使をしてはいけないのだ」と、私は主張できるだろうか? 非戦を論証するのに、今回のイラク戦争はずいぶん易しい例題なのだ。しかし本質的に難しい命題に挑戦する日がやがて来るだろう。すなわち、そもそも「正しい戦争」は本当にあるのか。…いやこれは藤原帰一の著書だ。なんとロッキング・オンから出ている。

う〜む、全編これパブリシティみたいになってしまったか。ちょいと金を振り込んでもらってもいい。

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