東京永久観光

【2019 輪廻転生】

韓国を知る、日本を知る

●韓国の3つの日刊紙が日本語で読める(ずっと前からだろうか?)。『朝鮮日報』『中央日報』『東亜日報』。●ちょっとブラウズしただけだが、これは面白い。一言で言うなら、他人の頭を理解するために、他人の頭を外から観察するのではなく、自分の頭に他人の頭を被せてみた、といった面白さだ。

●私はソウルを何度か歩いた程度だが、感想は一貫していて「韓国と日本はパラレルワールド(平行世界)」というものだ。つまり、街を歩いても買い物をしても、しばしば「アイテム同一、ブランド別個」の状態。わかりやすい例は、走っている車が日本と同タイプだが、けっしてトヨタやホンダではないこと。また、似たような店舗やコンビニに似たような商品が似たように並んでいるが、日本製ではないから当然微妙に違っている。テレビ番組やコマーシャルもそっくりだが、タレントは誰ひとり知らない(そういえば『トリビアの泉』の盗作騒動が持ち上がった)。●こうした点に限れば、何ごとも日本仕様なので、あるべき品目があるべき所に見つかってスムーズなのだが、それにもかかわらず、その品目をよく見ると全然知らない銘柄ばかり。それがとても奇妙なのだ。

●よく知られているかもしれないが、韓国の新聞がまた日本の新聞と同じ体裁だった。サイトのほうも、朝日や読売のサイトとほとんど同じ要領や気分でクリックできる。すると、その記事の項目や中身がまた、なじみのある図式で迫ってくるのだ。●今ならたとえば韓国軍のイラク派兵のニュースが出てくる。米国との関係をふまえた国益の主張があり、任務の範囲をめぐる議論があり、憲法を根拠にした反対もある。おまけにラムズフェルドもやって来る。ほか「社会」「経済」から「スポーツ」「芸能」まで、どこかで聞いたようなネタが、どこかで聞いたような切り口で、しかしまったく知らない名称をもって語られている。これまたパラレルワールド。●ちなみに北朝鮮の話題はさすがに多く、日本の新聞より遥かに多角的である印象。

●そうしていつしか、韓国人になったつもりで韓国の新聞を読んでいる私がいる。それは、もしかして、日本人として(日本人になったつもりで)日本の新聞を読んでいた私を、冷静に見つめ返すことではないか。ここにはナショナリズムを超えていく契機がある(またまた大きく出た)! ●意識はあくまで主観的な体験であるから、意識をいくら客観的に記述しても、意識を体験したことにはならない、などと言われる。ナショナリズムを見定めるにも、同じ困難にみまわれると考えてみよう。そうしたばあい、日本人でありつつ韓国の政治や社会を「なんちゃって韓国人」として読んでみることは、韓国人の意識を自分の意識として内側から実感することに近い。これは逆に、日本人の意識を他人の意識として外側から実感することにも通じるだろう。●ともかく、これらをブラウズしていると、韓国の価値観や性向とおぼしきものが、日本のメディアが韓国発のニュースを外電として報じるままに読んでいるのとは、かなり違ったふうに流れ込んでくる。少なくともこの感覚は新鮮だ。そうして、2002年の十大ニュースなども読んでみる。韓国から見た海外の十大ニュースも興味深いが、もっと面白いのは国内の十大ニュースだ。韓国の十大ニュースをまるで国内のことのように眺めてみることで、日本の十大ニュースをまるで国内のことのように眺めていたこれまでの自分が、ああそういうことだったかと少し客観的に分かってくる。

●また、韓国の政治や社会には日本と類似の課題がいくつもあることがわかってくる。それに対して日本とは違ったアプローチもなされていることだろう。日本のオルタナティブ民主党ばかりではない。

●参考:96年にソウルを歩いたリポート