東京永久観光

【2019 輪廻転生】

世界音楽地図

●とうの昔に有名なのだろうが、インターネットで音楽が聴けるラジオ局を集めた『Live365』。BGMにとてもよい。「World」というジャンルがあって、世界各地のエスニックと呼べそうな音楽が聴ける。ざっと試したところ、中南米または中東の系統が目立ち、東南アジアやインド方面がそれに続く。アフリカもある。中国系はなし。ヨーロッパではコソボの局があった。●プレイ中の曲名が表示され、しかも、どれほど辺境のムードが漂う曲であっても、「BUY」のボタンを押ぜば『amazon(米)』につながって直ちに素性がわかるのが凄い。ただ稀に『amazon』にリストがない場合もある。そのときは仕方ない。グーグルの果てが滝になって流れ落ちているのと同じだ。「アマゾンの限界は世界の限界である」とウィトゲンシュタインも言うだろう(言わない)。

●それにしても、たとえば旅行したことのある国なんて少ししかないわけだが、そこの音楽を聴いたことがある地域というものも相当限られているのだなあと気づかされる。だから、せめてこういうサイトでいろいろ知りたい。しかし、地球の多様性をまるごと反映するには、ここにあるラジオ局ではまったく不足かと思う。だいたい、各ラジオ局がその地域で運営されているということではないようだ。もっといえば、各音楽がその地域自体で流行しているということでもない。地球の各地域に流れている音楽に均等なアクセスができるようには、インターネットも音楽産業も私たちの意識も出来ていないのだ。少なくともワールドカップくらいの偏りは当然生じてしまうはずだ。

●しかし、それ以上に不思議なのは、そもそも、人々が地理的に分離しているのに合わせて、音楽も分離して存在しているのかというと、そんなことは全然なさそうだということ。言うまでもなく、英米のロックやポップスなどは日本をふくめ世界中でかなり満遍なく消費されている。●そんななかで、たとえば邦楽や民謡が「日本の音楽」の主流だと言われたら、それは正しいと思えない。それよりは、サザンやモー娘なんかを「日本の音楽」として外人さんには紹介したい気がする。かといって、そのサザンやモー娘が「世界スタンダード」に対する「日本エスニック」なのかというと、それもうなずけない。まあ「インターナショナル」に対する「ドメスティック」という括りならいいのかもしれないが、だったら「エスニック」は「ドメスティック」とまったく別概念なのかというと、それも難しい。●そういうわけで、日本の音楽についてはこうした微妙なところを分別できるのだが、じゃあたとえば、フィンランドではどこの国の音楽が主流なんだろうとか、メキシコの音楽って何を指すんだろうとか、そうなると皆目わからない。ベトナムの人が浜崎あゆみを聴いたら、「インターナショナル」なのか「アジアン」なのか「ジャパニーズ」なのか、とか。●このことは、ロックとかジャズとかクラシックといった音楽の分類が、たいして整合性をもって分岐しているわけではなく、それに応じて均等に演奏され視聴されているわけでもない、という事情にも似てくる。●つまるところ、音楽の世界地図というのをどう描けばいいのか、まったく途方に暮れてしまうし、それはじつに楽しいということだ。

●さて、こうした理屈はさておき、好きな音楽に出会うという体験はよいものだ。『live365』には、以前ふれた「Radio Free Klezmer」があり、このところずっと聴いている。クレズマーは東欧ユダヤ系の音楽で、クラリネットやバイオリンを基調にした哀愁のある旋律が特徴。アラブ系やインド系の音楽も面白いし、ラテン系ももちろん心地よいが、クレズマーには格段にハマったと感じている。しかし、このヨーロッパのエスニックが、私には欧米人に響くようには響いていないのではないかと思うと、また奇妙な気持ちだ。こういう好みというか偏りというか、そういうものが私のなかにいつどのように形成されたのか、それを探究するのもまた楽し軽部氏。●某大手レコード店の「ワールド」のフロアにも「クレズマー」の一角はあるのだが、ストックはわずかで視聴もできない。それに比べて「Radio Free Klezmer」なら、多数のアーティストの多彩な楽曲が終日流れてくる。そのうち何か買おう。●参考