東京永久観光

【2019 輪廻転生】

きょうは何の日

韓国映画ペパーミント・キャンディー』(ネタバレ注意)。独特の進行をする映画だ。40歳のある男が破滅する。その現在1999年がまず描かれる。続いてその3日前が描かれる。さらに5年前。12年前。15年前。19年前。20年前。歳月を逆順に遡りながら、過去がしだいに明かされていく。

つまり観客は、男の最近の出来事という「結果」を先に見るわけだ。たとえば3日前の場面で、男はペパーミント・キャンディーを買う。古いカメラを受け取る。足を引きずっている。どの出来事もとても気になる。だがその意味は分からない。そして映画は、キャンディー・カメラ・引きずる足、などの出来事に至った「原因」を、過去の出来事としてあとから次々に明かしていく。その場面はどれも実に実に印象的だ。

●それはそうと奇妙なことが気になる。観客は、キャンディー・カメラ・引きずる足といった出来事に、男のどのような状況や心情がまとわりついていたのかを、あとになってやっと思い知るという構図だ。キャンディー・カメラ・引きずる足というサインは、その場面を見ている時点では、気になりながらも絶対に見送るしかできないということだ。

もどかしいではないか。というか、それはなんかおかしくないか。よくわからない。いずれにしても、このようにもどかしいからなおさら、映画の細部というものがどれほど重要に機能するのかということを、この映画はいっそう痛烈に教えてくれたような気がしている。

(伏線とはどれもそういうものなのか、それともこの映画は時間が逆転した伏線だから、どこか特別なのか、そこがうまく頭が働かない。)

●この映画は、ナレーションなどないし、説明的な台詞も排されている。代わりに各場面のちょっとした振るまいが、常に大切な鍵を示している。細部がことごとく大きな意味を担っているのだ。見逃すとたぶん深い理解には達しえない。

●一般に、映画の一場面と小説の一場面を比べると、どちらがより多くの細部を含むことができるのだろうか。それはうまく答えられない。しかし、ともかく映画の一場面が含んでいる細部は、必ず何かを意味するために作られるものなのかもしれない。そうでない細部は冗長なのかもしれない。したがって、映画の細部の意味は実はとても明快なのかもしれない。そんなことをあれこれ考えた映画だった。

●さて、ここが完全にネタバレなのだが、19年前(1980年)として描かれているのが光州事件の場面だったのだ。きょう5月27日はその日ということで、だいぶ前に見た映画だが、思い出して書き留めてみたしだい。(*追加。光州事件の記念日は5月18日。27日は軍隊が市民を完全に制圧した日とのこと)

●繰り返し見るといっそう面白い映画だと思う。独特の進行について考えることもまた面白い。で、そういうことを抜きにしても文句なく賞賛したい作品だ。