東京永久観光

【2019 輪廻転生】

平山瑞穂『ラス・マンチャス通信』

ASIN:4104722014


部位の特定できない憂いやだるさが純文学の感触だとしたら、ミステリーやSFは、明らかな怪我や病気から始まって原因の判明や治療の完了によって終わる、とでも言えるか。その喩えでいくと、平山瑞穂ラス・マンチャス通信』(日本ファンタジーノベル大賞作品)は、最初からうっすら漂っていた疲れや痛みが、やがて告知される異様で致命的な病巣によって説明されていく…かのようで、身体の不調は実はそれによっては解消されず妙なしこりがずっと残る、といった独特の面白さだった。

小説は、幻想すなわち非現実的な要素をどのように含むのだろう。まるごと幻想に基づいた設定で語られがちなジャンルはある。一方、そうした幻想を排除することで保たれるようなジャンルもあって、そこでは幻想の要素は現実における異常や空想の表現としてだけ使われる。一般的にいうと、いずれの幻想の位置づけにも私は少しずつ物足りなさを感じる。ところがこの『ラス・マンチャス通信』は、地味で狭い日常が淡々と描かれるなかで、不明瞭だが強烈な非現実がまとわりついていたり、非現実の一撃がふいに襲ってきたりする。こうした幻想の持ち出し方というかそこへの踏み込み方というか、その加減が非常に個性的で魅力的だった。

表紙が大友克洋風(?)のイラストになっている。たとえば『ファウスト』の表紙イラストの世界をそのまま描いたような小説だといわれると、私はどうも読みたい気が起きないのだが、この表紙風の世界だったら小説として入り込んでみてもいいと思った。ところが実際に『ラス・マンチャス通信』を開いて読んでいくと、この表紙の面白さともかなり違った不思議世界が広がっているのだった。

どうだろう、舞城王太郎『山ん中の獅見朋成雄』などが、あのいかにも舞城的な語り口調を完全に除去すると、幻想のからまりぐあいという点で『ラス・マンチャス通信』に似ているのかな、とも思う。

いずれも、これから読む人には何の情報にもならないかもしれない。しかしこの小説は、「これいったい何」と首をひねりつつ徐々に沈み込んでいくほうが、きっといい。

 *

『ラス・マンチャス通信』は、はてな2個所で推薦されていて、読もうと思った。

http://d.hatena.ne.jp/ishmael/20050414#p2 毎度詳しく的確な評で参考になる。

http://d.hatena.ne.jp/osamu-teduka/20050304#1109892134 この人は、別のサイトで独特の短い創作文を公開している。そっちを前から知っていて、ああいう文を書く人が評価する小説ということで、特に気に留まった。さらに実は、まったく方向が違うともおもえる『『論理哲学論考』を読む』(野矢茂樹著)をも詳しく読み込んでいて、興味や謎は深まる。http://d.hatena.ne.jp/osamu-teduka/20040930#1096554662

なお、『ラス・マンチャス通信』の作者平山さん自身が、なんとはてなユーザー。読み終わったあとで知り驚いた。http://d.hatena.ne.jp/hirayama_mizuho/