東京永久観光

【2019 輪廻転生】

無国籍がなぜに郷愁を誘う?

クレズマーと呼ばれる音楽がとても気になっていた。いわく「東欧のユダヤ人に由来する音楽」。日本にもそれ系の楽団が一つだけあるという。というわけで、先日そのライブを初めて聴きに行った。楽団の名は「 こまっちゃクレズマ」。クラリネット、サックス、バイオリン、アコーディオン、チューバ、ドラムスの6人編成で、歌もたまに入る。場所は西荻窪の「音や金時」というライブハウス。楽しい一夜だった。

クレズマーは結婚式などで演奏されたらしい。ハレの日にみんな浮かれて賑やかに踊ったのだろう。今回のライブもそんなプライベートでリラックスした空間だった。曲はしかしすぐに熱気を帯びて自在にエンドレスで盛り上る。それでいて、なんとも言えない哀愁が底を流れてもいる。どちらかといえば、これまでネットラジオで聴いていたクレズマーは「哀しい>楽しい」で、こまっちゃクレズマは「楽しい>哀しい」だった。

それにしても、泥くさく狂い咲くこの独特の響きは、やはり「無国籍」という形容になるか。「マイムマイム」がイスラエル民謡で、たしかにああいう感じはある。でも「アラブ風かな」とか「トルコ風かな」とか勝手にいろいろ思う(そもそも同質なのかもしれない)。映画やテレビで見たロマの音楽にも近い。旅行でウイグル人の結婚式を見たことがあったが、そのときの演奏や踊りにも似ている。おまけにカウリスマキ映画まで思い出されるのが不思議だ。しかしいずれの曲も「ああこれはクレズマーだ」と分かるのは明らかで、だから音階やコードには間違いなく特有の傾向が濃いのだろう。さらには、こまっちゃクレズマが特にそうなのかもしれないが、寺山修司風の見せ物小屋、あるいはちんどん屋のムードも漂っている。ともかく、ふだん聞きなれている音楽とは明らかに異質だ。というか、むしろ一般に流通しているロックやポップスというのが、実は音楽性にしろ使用楽器にしろかなり狭く固定化されているかなと、逆に気づく。実際こんなクラリネットをメインにしたフリー・インストゥルメンタルなどというものに触れることは、めったにないだろう。楽器ごとに主題が展開されるところはジャズと同じだが、メロディーやフレーズは一線を画している。

ところで、こまっちゃクレズマのメンバーはみなけっこう年季が入っていた。音楽については酸いも甘いも分かって今はもう演奏そのものバンドそのものをこよなく愛してます、というふうに感じられた。超絶技巧も余裕で見せるが実はフレンドリーな緩さが基調と思われた。また一人ひとり違った深い個性がいやでもにじみ出ていた。こういう仲間はほんとに楽しいんだろうな。私もバンドをやりたいとはずっと思っているのだが、こういうときは本当にそう思う。

あるユダヤ人と日本人の結婚式に、こまっちゃクレズマが呼ばれたことがあるという話が出た。演奏が始まったとたん、出席したユダヤの人たちは一気に喝采し、たいへんな盛り上がりだったという。まさかこんなところで自分たちの音楽が聴けるとは、という感じだったのだろう。もし私がどこか地の果てみたいなところ(たとえばイラクとかアフガニスタンとか)に滞在していたとして、さてどんな音楽に日本を感じてしまうのだろう、などと考えた。


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クレズマーについては以下のサイトが詳しい。
http://www.asahi-net.or.jp/~VZ4S-KUBC/yid-klezmer.html
もちろん聴いてみるのが一番だ。
ネットに『Radio Free Klezmer』というラジオ局があって24時間放送している。
http://home.comcast.net/~radiofreeklezmer/
(マックなら「iTune」→「ラジオチューナ」→「International」でたどれる)
私も偶然このラジオ局を知って惹かれただけで、知識もCDもまだない。

こまっちゃクレズマーについて http://webclub.kcom.ne.jp/mc/u-shi/
ライブハウス「音や金時」 http://www2.u-netsurf.ne.jp/~otokin/


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過去の日記から
http://www.mayq.net/junky0302.html#24
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20030909